岸田文雄首相とバイデン米大統領は10日(日本時間11日未明)、ワシントンで首脳会談を行い、共同声明「未来のためのグローバル・パートナー」を発表した。2015年の安倍晋三首相以来、9年ぶりとなる「国賓待遇」としての訪問だった。バイデン氏は「疑問の余地なく、日米同盟はかつてなく強固になった」と語った。

 共同声明の柱となったのは、米軍と自衛隊の指揮・統制機能の強化や日本による米艦船の改修、日米英共同訓練の開始などの安全保障協力だった。それでは、現在の日本を取り巻く安全保障の状況は具体的にどう変わりつつあるのだろうか。

米ホワイトハウスでの共同記者会見でバイデン大統領(右)と握手する岸田文雄首相 ©EPA=時事

米中の深刻な「ミサイル・ギャップ」

 日米首脳会談より1週間前の4月3日、米太平洋陸軍のチャールズ・フリン司令官が、新しい「中距離の能力を持つ発射装置」を年内にインド太平洋地域に配備することを明らかにした。米国は1987年、旧ソ連と中距離核戦力(INF)全廃条約を締結して以降、射程5500キロ以下の中距離ミサイルを廃棄した。現在、西太平洋などを射程に収める中国軍の中距離ミサイルは、弾道ミサイルが約1500発、巡航ミサイルが約500発と言われている。フリン氏が明かした方針は、「中国・2000発vs米国・ゼロ発」という深刻な「中距離ミサイル・ギャップ」を埋める意図があるとされた。

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 自衛隊幹部は「米陸軍が配備すると言っている以上、中距離弾道ミサイルのプラットフォームは(すでに米ロッキード・マーチン社から米陸軍に引き渡されている)タイフォンの可能性が高い」と語る。タイフォンは、トマホーク巡航ミサイルと対空ミサイルSM6などの搭載が可能だとされる。統合ミサイル防衛(IAMD)を構成するミサイルシステムのことで、ミサイルを装填したVLS(垂直発射装置)、捜索レーダー、戦術データリンクなどをトレーラーに搭載して運用する。

 自衛隊幹部は「タイフォンのVLSはおそらく1基あたり4セル(4発のミサイル)だと思うが、直径が大きい弾道ミサイルを運用する場合はセルを減らすかもしれない」と語る。タイフォンは2024年中に配備されるが、米国の生産能力から考えて、ミサイルの備蓄は「せいぜい年間数十発程度」(同)になるとみられる。これだけでミサイル・ギャップを埋めるためにはやや物足りない。