文春オンライン

「日本はなめられている」感染急拡大で在日米軍に批判殺到…“岸田首相の憤慨”にも動じないアメリカの本音《基地周辺で感染者続出》

2022/01/17
note

「水際対策の意味がないじゃないか。日本はなめられ過ぎだ」

「なんで米軍ときちんと調整しないんだ。外務省は何をしていたのか」

 今月9日、沖縄、山口、広島の3県に「まん延防止等重点措置」が適用された。この3県で感染が急拡大した理由はもはや疑う余地がない。キャンプハンセンや岩国基地などの米軍基地から染み出したからだ。これには政府与党内からも厳しい声が相次いだ。コロナ対応に政権の浮沈がかかる岸田首相も周辺に「どうなっているんだ」と怒りを露わにしたという。

ADVERTISEMENT

水際対策を大幅に緩めていた在日米軍

 そして批判の矛先は、在日米軍に特権的な地位を与えている「日米地位協定」にも向かっている。日米地位協定に基づき、米軍関係者の検疫については米軍任せとなっている。昨年9月初旬、在日米軍は出国時や日本入国直後のPCR検査を免除するなど、水際対策を独自に大幅に緩めていた。そして外務省がこの事実に気づいたのは昨年12月中旬だった。

 米軍基地周辺での感染急拡大について、沖縄県の玉城知事は「地位協定の構造的な問題だ」と批判。立憲民主党の泉代表も記者会見でこう力を込めた。

「地位協定を見直し、少なくとも検疫関係は日本と同等の状況をつくり出すべきだ」

沖縄県宜野湾市にある米軍普天間飛行場 ©時事通信社

 一方、矢面に立った外務省。幹部の一人はこう語る。

「米軍の感染対策の緩みを見過ごしたのは、正直こちらにも落ち度があった。しかしそのことが地位協定の改定論に発展するのは、何としても避けなければならない」

 1960年の制定以来60年あまり、一言一句変わっていない日米地位協定。改定はなぜそんなに難しいのか。今回の感染拡大をきっかけに岸田首相が、林外相が動く可能性はないのか。本音と裏側を取材した。

“鳩山元首相の二の舞”になりたくない

 日米地位協定では米兵の犯罪に対する日本の捜査権が極めて限られているほか、米軍機の飛行には事実上制約がない。1995年の少女暴行事件や、2004年の沖縄国際大学ヘリ墜落事故など大きな事件事故のたびに改定の必要性が訴えられてきた。しかし改定に至ったことは一度もない。

「戦後レジームからの脱却」を掲げて、憲法改正を目指してきた安倍元首相。そんな安倍氏も日米地位協定の改定は難しいとかねてから語っていた。

「集団的自衛権の行使一部容認はやったけれども、自衛隊は米軍と共に戦えるという状態には程遠くて、NATOとは違う。日本が改定を提起するのはとても難しい。アメリカ側ももの凄く嫌がる」

 冷戦終結を機に一部改定を成し遂げたドイツやイタリアとは条件が違うというわけだ。

 また自民党幹部は、現在の米中関係の緊張が改定を困難にしていると話す。