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岸田首相は改定を否定するが……

 実現するには多方面にわたる粘り強い交渉と高度な政治決断が必要となる地位協定改定。自民党内では岸田首相が踏み切ることは考えられないという見方が大勢だ。

「ボトムアップ型の岸田首相には、難しい政治決断はできないね。それにバイデン大統領にまだ会えてもいない状況で、地位協定改定なんて夢のまた夢だ」

 当の岸田首相は今月6日、早々と改定を否定した。

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「日米地位協定の改定等は考えておりません」

岸田文雄首相 ©AFLO

 では林外相はどうか。林氏は今月発売の文藝春秋で「政治記者123人が選んだ次の総理」のトップに躍り出て、今最も注目される政治家の一人。防衛相、経済財政担当相、農水相、文科相と歴任し、その能力と安定感は折り紙付きだ。その一方で、政治家としてのリーダーシップや突破力は未知数で、自民党のあるベテラン議員は「優等生なんだけど政治家として何をやりたいのか見えない。情熱を感じられない」と手厳しい評価を下す。

 そんな林氏にとって今回の在日米軍問題への対応は、外相としての力量が試される機会となる。そして「ピンチはチャンス」という言葉もあるように、在日米軍のコロナ対策の改善はもちろんだが、日米地位協定の改定に向けた道筋をつければ、目指している宰相の椅子を引き寄せる実績となると考えても不思議ではない。

「パンドラの箱」を開けるのは誰か?

 林外相は公には岸田総理に平仄を合わせて「見直しは考えていない」と語っている。そんな中、周辺が林氏の本音を尋ねたことがあったという。それに対して林氏は「4年8か月も外相を務めた岸田首相」が否定している以上、地位協定の改定はないという立場を崩さなかった。そして在日米軍基地からの感染拡大防止策については、運用の改善で対応する方が小回りが利くという認識を示したという。その上で周辺にこう語った。

「(地位協定改定を)やるにしても9割はバサロ(水に潜ったまま水中を進む泳ぎ方)だろうね」

 林氏は笑みを浮かべたという。この事実だけでは林氏が地位協定改定に前向きとは言えない。ただ中期的な検討課題の一つとして、林氏の脳裏にインプットされたに違いない。この通常国会の答弁では、「見直しは考えていない」とお経のように繰り返すだろう。ただブリンケン国務長官との良好な関係に自信を持つ林外相がどこかでバサロを始めないか、注視する必要がある。

林芳正外相 ©AFLO

 2002年、河野太郎議員は「日米地位協定の改定を実現し、日米の真のパートナーシップを確立する会」の幹事長をつとめ、「役所ではなく政治が判断すべき問題が、日米間に横たわっている」と語った。しかし外務大臣となった河野氏はその持論を封印した。「異端児」と呼ばれた河野氏でも現実的には難しいのだ。では一体誰がいつ、このパンドラの箱を開け、一歩を踏み出すのか。日米同盟の未来が掛かっている。