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「今、在日米軍はかなりの緊張状態にある。『こんな時に何を言い出すんだ』という話になる。そして日米関係に亀裂を生むのは、中国につけ入る隙を与えてしまう」

 そして政権内で恐れられているのが、鳩山由紀夫元首相の二の舞となることだ。普天間基地の移設先を「最低でも県外」と公言して期待感を煽り、結局、新たな移設先が見つからずに首相辞任に追い込まれた鳩山氏の記憶がちらつくのだ。政府関係者はこう話す。

「地位協定の改定はパンドラの箱を開けることになる。どこに着地できるか、何年かかるか分からないし、見通しもなく始められない。運用で実質的改善を図る方がよほど早いし、確実だ」

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「改定のチャンスじゃないか」

 しかし日本政府内も反対論ばかりではない。ある駐米大使経験者は周辺に「今の米中対立を考えれば、アメリカは日本を必要としている。改定のチャンスじゃないか」と語っている。また保守系議員の一人はこう話す。

「日本の言い分を通すのではなく、日米同盟のあり方を積極的に見直すという全体のパッケージの中なら改定できるんじゃないか。確かにバーターとして日本に何ができるのかは難しい問題だけど、外務省は改定をタブー視しすぎている」

©宮崎慎之輔/文藝春秋

 今月7日に行われた日米外務・防衛担当閣僚会合(2プラス2)では、地域の安定を損なう中国の行動に、日米がともに行動を起こすことに踏みこみ、日米の一体化はより鮮明になってきている。防衛省幹部は「日米同盟の次元が変わった証だ」と胸を張った。だとすれば地位協定の「次元」も変えていくことも可能ではないか。

米軍の本音は……

 では、米政府の地位協定に対する温度は、実際どうなのか。昔の人脈を辿ってホワイトハウスに探りを入れてみると、いくつか反応が返ってきた。

「アメリカから積極的にアクションすることはない」

「岸田首相が改定の可能性を否定している。それがすべてだ」

 米政府が自分たちに利益がない改定に積極的に応じることはないだろう。米軍関係者に話を聞くと絶対匿名を条件に本音を語った。

「日本は極めて面倒臭い国だ。自国の理屈を通して責任を回避している。権利を主張するなら自分たちも態勢を整えてからにして欲しい。日本の世論には構っていられない」

 日本は1000平方キロを超える広大な土地、年間2000億円を超す駐留費用、そして地位協定に基づく特権的な地位も与えている。しかし米軍の本音はいつまでたっても変わっていないのだ。