この幹部は「おそらく、日米で事前に攻撃目標の役割分担をすることになるだろう」と語る。「自衛隊は米軍に比べ、ターゲッティング能力が劣っている。特に動く目標を狙うためには、無人機によるリアルタイムの追跡やより正確な衛星情報が必要になる。米軍はおそらく、自衛隊に陸上施設などの固定目標を任せ、自分たちは残りの固定目標と、ミサイルの移動発射台(TEL)など動く目標を担当するつもりではないか」と語る。
なぜ日本は急ぐのか?
では、日本はなぜ、一世代古い機種に切り替えてまで、トマホークの購入を急いでいるのだろう。日本の安全保障専門家の一人は「米国が掲げたツァイト・ガイスト(時代精神)と関係がある」と指摘する。
米国は今、同盟国などに対して「2027年までに台湾有事への備えを完了する必要がある」と説いて回っている。「中国が2027年(まで)に台湾に侵攻する可能性がある」。これは、21年3月のデービッドソン米インド太平洋軍司令官(当時)、23年2月のバーンズ米中央情報局(CIA)長官、同年3月のヘインズ米国家情報長官らが、繰り返し唱えてきた内容だ。
この安保専門家は「時代精神を作り出して、結集を図るのは米国が良くやる手のひとつ」と語る。「過去、時代精神で有名な人物の一人がアドルフ・ヒトラーだ。ヒトラーは第1次世界大戦の巨額賠償に苦しむドイツ国民に対し、自分たちこそ被害者だという時代精神を作り上げ、第2次世界大戦に向かった。
今、米国は2027年までに準備を完了しなければならない、という時代精神を作り出した。その旗のもと、関係国の結集を図っている」と話す。日本によるトマホークの前倒し購入、今回の日米首脳共同声明で合意した数々の安全保障協力も、「2027年に向けた準備」の一環だ。
インド太平洋地域に広がる“米軍の取り組み”
日本ではあまり知られていないが、米国と米軍の取り組みはインド太平洋地域全般に広がっている。米空軍は「機敏な戦力展開(ACE)」という戦略概念を掲げ、西太平洋全域で滑走路の増設や拡張などを進めている。中国の中距離ミサイル攻撃に備え、航空戦力を分散させて残存性を高める狙いがある。
すでに、西太平洋パラオのペリリュー島では、1944年のペリリューの戦い後に放棄した飛行場の再整備が始まった。豪州北部のティンダル豪空軍基地では、米国予算によって滑走路の延長や拡張、弾薬庫の増設などが進められている。23年春には、フィリピンとの「防衛協力強化協定(EDCA)」に基づき、米軍がフィリピンで使用できる軍事施設が5カ所から9カ所に増えた。