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「朝8時半頃に拘置所の近くで集合ということになって、事務官と待ち合わせました。検察官と事務官は必ずセットで動きますから。それで連れ立って拘置所へ行っています。事務官も死刑執行の立ち会いは初めてでした」

2階で死刑囚の首に縄をかけ、床が抜けて1階に落下する

 拘置所の受付を経て、すぐに2階にある所長室へと案内された。

「所長室でお茶を1杯いただいて、それから『時間になりましたのでご案内します』と言われて、部屋を出て刑場へと向かいました」

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 所長室での会話について、記憶には残っていないそうだが、「とくに説明とかはなかった」とのこと。刑場は拘置所内の外れにあり、A氏と事務官は所長室を出て、そのまま2階から階段を使わずに向かっている。

上から見た配置

「案内された部屋にはパイプ椅子が横一列に並んでいました。そこに拘置所長と私、事務官が座ります。正面にはガラスの仕切りなどはなく、こちらの床が途切れています。そして素通しの対面にも同じように床だけがあり、1階と2階の様子をこちら側から見ることができるようになっているのです。2階には先端が輪になった縄が上からぶら下がっていました。つまり、対面の2階で死刑囚の首に縄をかけ、床が抜けて1階に落下する仕組みで、そのすべての行程がこちら側にいる私たちに見えるようになっていました」

後ろ手に手錠をされていたか聞くと…

 A氏の記憶によれば、パイプ椅子から向かい側にある縄までの距離は10m以上。座って間もなくすると、複数の刑務官に連れられ、Xが姿を現したと語る。

「連れて来られたXは顔に白い袋をすぽっと被っている状態で、どういう表情をしているかは全然わかりません。とはいえ、抵抗する様子などはまったくなく、刑務官に脇を支えられ、素直に歩いてきました」

 そこで私は、Xが後ろ手に手錠をされていたか聞く。

©AFLO

「後ろ手錠? 手錠のことは覚えていないですね。一応、付き添って連れてくる人(刑務官)が2~3人いて、袋を被ったままの状態で右側から歩いてくる。そして停止位置で止まると、首に縄をかけて、周囲にいる人たちがサッとどくんですね。彼らがどいたら、もう、すぐに落ちます」