執行時に声を上げたりということはなかった
死刑の執行状況について詳述している、共同通信社の佐藤大介編集委員による『ルポ 死刑』(幻冬舎新書)のなかでは、〈まずは確定死刑囚をガーゼで目隠しし、後ろ手に手錠をかける〉と書かれている。そうしたことから、ガーゼの代わりに袋状の布で目隠しを行い、暴れることがないように、後ろ手に手錠をされていたと予想される。さらに同書は次のように記す。
〈刑務官3人は、確定死刑囚を赤枠の中に立たせると、1人が素早く両足をひもで縛り、2人がロープを首にかけて、首の左側に結び目が来るようにして軽く締める〉
つまり、首に縄をかけられるのと同時に、死刑囚の両足はひもで固定されていたのだろう。落下時の状況についてA氏は説明する。
「落ちたときの衝撃で全身がびーんと伸び、反動で跳ね上がります。それからくるくると回転しました。目に焼き付いているのは、それからしばらく、びくんびくんと全身が波打っていたことです。ただし、執行時になにか声を上げたりということはなかった。記憶にある限り、ずっと無音でした」
死亡が確認されると、複数の刑務官によって遺体は下ろされる
前出の『ルポ 死刑』においては、〈確定死刑囚の体が落下すると、地下では刑務官2人が待機し、1人が抱きかかえるようにして受け止める〉とあるが、A氏の立ち会った執行現場では、そのようなことはなかったとのこと。彼の記憶では、落下する階で視界に入っていたのは、椅子に座った白衣姿の医務官だけだったそうだ。また、落下のボタンを押す(誰が押したかわからなくして、精神的負担を軽くするための)複数の刑務官の姿も、A氏のいた場所からは見えなかったと話す。
「腰かけていた医務官は、Xの体が動かなくなった段階で立ち上がり、ずっと手首の脈を診ていて、『まだです』と首を横に振っていました。結果的に死亡が確認されたのは、11分後くらいだったと思います」
死亡が確認されると、複数の刑務官によってXの遺体は下ろされた。
「縄が下りてきて、刑務官たちが下で体を支えて首から縄を外していました。そこまで見たところで、拘置所長から『じゃあ、所長室に戻りましょう』と声をかけられたんです。なので、Xの顔は一切見ていません」