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人が絶命する瞬間を見たことについて、感想を尋ねると…

 落下する階の床は、コンクリートの打ちっ放しになっていたそうだ。

「刑場で目に入った景色は、全体的にグレーがかっていたイメージです。まず下の階の床は全面がコンクリートのグレー。それから対面の上の階の左右の手前側には、黒っぽいカーテンがかかっていました。その右手から刑務官に連れられてXがやって来ましたから。全部が暗い色調で、ほとんど色のない世界ですね。あと記憶に残っているのは、医務官の白衣の白さでした」

 その後、A氏は所長室に戻り、事務官が作成した「死刑執行始末書」に署名、押印して、立ち会いを終えたのだった。なお、同始末書には、刑を執行した時間や死亡が確認された時間などが記されている。

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 私は人が絶命する瞬間を見たことについて、どのような感想を抱いたか尋ねた。

「やっぱり、(絶命するまでの時間が)長い人は長いんだな、というのは感じましたね。それまでに平均してどれくらいの時間がかかるというのは聞いていましたが、そこで聞いていたものよりも長かったですから」

 その返答を受けた私が改めて、「衝撃などはなかったのですか?」と問い直すと、A氏は次の例えを口にした。

「立ち会いの順番が回ってきたので立ち会った」ということに過ぎない

「庁舎に戻ってから、事務官と一緒に検事長のところに顔を出して『執行を見てきました』と報告すると、『ご苦労様。今日はもう帰っていいから』って言われるんですよ。でも、その日は仕事をしましたね。ああ、そういえば……出たかな、出たな、酒が……」

 記憶が喚起されたA氏は言う。

「お清めの酒が出て、検事長が注いでくれたような気がします。たしかそこには検事長と次席と総務部長がいて、朝っぱらから一杯やったような……」

 つまりは検察にとっても、死刑執行への立ち会いというのは、それほどの一大事だと認識しているということだろう。

 最後にA氏に、自身が死刑執行の立会人となったことへの感想を聞いた。

「それについては、これだけの事件を起こして、死刑判決が出ているんだからっていうふうに、立ち会う者としては納得してやっています。そうすることが検察官の職責ですし、立ち会いの順番が回ってきたので立ち会った、ということに過ぎません」

 とはいえ、その体験の“重さ”については、話を聞くだけの私にもずっしりと伝わってくるものだった。