緊迫感に満ちた、あっという間の2時間38分
私自身は、この映画を観て久間さんが「無実」だとは確信できない。だが同時に、久間さんが「犯人」だという確信も持てない。それを疑わせる事実が次々と明らかにされるからだ。真実はどこに?
そんな場合、「疑わしきは被告人の利益に」というのが刑事裁判の原則だろう。にもかかわらず久間さんは裁判で死刑にされた。検証取材をした記者が語る。
「司法は信頼できると呑気に思っていたけれど、そうではないと」
この国の司法(justice)に正義(justice)はない。正義の女神(Justice)もいない。久間さんならずともそう言いたくなる。実は隠れた主役、というか“主犯”は、画面に登場しない裁判官ではないか。
2時間38分の作品だが、あっという間に時が過ぎる。その秘密は構成にある。
冒頭のナレーション。「ヘタクソな語りだな」と思いながらふと気づく。これ、ナレーションじゃない。事件を伝えるニュースの記者リポートだ。だから拙いけど、その分臨場感がある。
映画は全編ノーナレ(ナレーションがない)で、当時の音声と映像を駆使して描いている。これが緊迫感とドライブ感を生み、事件の渦中に入り込む感覚をもたらす。そこはさすがNHK、長年の蓄積が生かされている。そんなところにも“オールドメディア”の底力を見る思いだ。
『正義の行方』
STORY
1992年に福岡県飯塚市で2人の女児が殺害された「飯塚事件」。DNA型鑑定などによって犯人とされた久間三千年は、2006年に最高裁で死刑が確定、2008年に福岡拘置所で刑死した。“異例の早さ”だった。
翌年には冤罪を訴える再審請求が提起され、事件の余波はいまなお続いている。本作は、弁護士、警察官、新聞記者という立場を異にする当事者たちに取材、時に激しく対立する〈真実〉と〈正義〉を突き合わせながら事件の全体像を多面的に描き、やがてこの国の司法の姿を浮き彫りにしていく。
STAFF
監督:木寺一孝/特別協力:西日本新聞社/協力:NHKエンタープライズ/テレビ版制作・著作:NHK /制作:ビジュアルオフィス・善/ 製作・配給:東風/2024年/158分/4月27日公開