上京してすぐの頃、時間を持て余した私は、近くの映画館でやっていた『スープとイデオロギー』をなんとなく観た。
こんな経験をした人が今もまだ大阪にいるの?
ドキュメンタリー映画を観たことがなかった私にとってハンマーで頭を殴られたような衝撃的な映画だった。
馴染みあるコテコテの関西弁と、どこにでもいそうな明るいおばあちゃん。そのホームビデオのような映像で語られる話は、想像もできないほどの事実。記憶。そして時間をかけて作られていく愛のこもったスープ。
北朝鮮? こんな経験をした人が今もまだ大阪にいるの? 何も知らなかった。何もわからなかった。信じられなかった。
その酷烈な記憶を話した途端、誰かに託すように全てを忘れていく母。どんな思いで胸にしまっていたのだろう。