監督はそれがわかっていたから、考えたお芝居をするなと言ってくださったのだと思います。むしろ圭介を演じる上で考える必要はないと教えてくださったのだと、今となっては理解しています。
それは僕自身もなんとなく気がついていたのですが、わかっていてもやっぱり少しはお芝居をしたほうがいいのかなと思ってしまうもので。それに負けて考えたお芝居をするとすぐ監督は察知して。その繰り返しのなかで、少しずつ「濱中圭介」ができあがっていった、と感じています。
──福士さんが「濱中圭介」をつかみ取る前と後で、監督からの指示は変わりましたか?
「濱中圭介」をつかみ取る前は何度もテイクを重ねることもありましたが、つかみ取った後はほぼ一発で。「心から出るセリフとお芝居なら何をやってもOK」という監督の演出を身に染み込ませることができたのだと思います。
今思えば、最初の数日間は、脳みそを通して頭で考えたお芝居をしていたんです。だから、セリフの言い回しを考えたり、こういう表情でやってみようと考えたりしてしまって、大森監督から必ず「もう一回やってみよう」と言われてしまったのだと思います。
「全部捨てていいから、脳みそを通さないで、脊髄反射でやってみよう」というアドバイスを理解してから、自分でも自分が変わったと実感できました。
大森監督はおそらく、「今、脳を通ったかどうか」を見ていたのではないかと思います。役者が感覚的にやっているのか、脳で考えてやっているのかを見極めて、それ以外は役者に託してくれていたように感じます。
毎回100点満点のお芝居を披露するよりも…
──演じるキャラクターとしても大森監督のやり方としても、今回は、これまでにない作品だったのではないでしょうか。
初めてで貴重な経験をさせていただきました。大森監督に言われて特に印象的だったのは、「技術はもうあるからいいんだよ」というお言葉でした。
僕はこれまで、お芝居が自分の「技術」とは思ってはいなかったので、まずは自分のお芝居を「技術」と言われたことが心に残りました。