2024年3月19日、日銀は金融政策決定会合で「マイナス金利政策」を解除、実に17年ぶりの利上げに踏み切った。
通常、「利上げ」をすれば「円高」になるところが、今回は「利上げ」をきっかけにむしろ「円安」が一気に進んだ。当初、市場参加者の多くは「152円」を政府・日銀の“防衛ライン”と見ていたが、4月に入り、その“防衛ライン”を呆気なく突破し、4月29日には一時「160円台」まで円安が進んだ。
ところが同日中に一転して6円近く「円高」に振れ、5月2日も4円以上の「円高」となった。市場では、4月29日と5月2日に、政府・日銀による「覆面為替介入」があったと見られている。
その結果、円ドル相場は、1週間で8円を超える大幅な値動きとなり、5月7日時点で1ドル=154円台となっている。今後、為替相場はどうなるのか。
〈市場の特性として、もう一段の円安を試しにいくこととなります。(略)「160円台前半」、そこを越えるとさらに「170円台後半」までもが視野に入ってきます〉
こう語るのは、日・米・加・豪の金融機関で為替ディーラーとして国際金融取引に従事した経歴をもち、金融機関専門誌「ユーロマネー」のアンケートで「為替予測部門の優秀ディーラー」に選出されたこともある岩本さゆみ氏だ。
新NISAスタートもあり、投資ブームが続いているが、為替ヘッジをせずに海外株投資信託を保有している人にとって、円安の流れが続けば為替差益が生じて、海外投資にはプラス要因となるが、逆に円高の流れに転じれば為替差損が生じて、海外投資にはマイナス要因となる。それだけに「円相場」の行方は、投資家にとって気になるところだ。
今後の為替相場を占う上で、岩本氏が注目するのは、スイス・フランの動きだ。
キャリートレードに使われてきた円とスイス・フラン
〈為替ディーラーには、不思議なもので、相性の良い通貨とそうでない通貨があります。「どの通貨が好きか?」と尋ねられれば、私は迷わず「スイス・フラン」と答えます〉
〈主要国の中でも、スイスと日本の政策金利は常々「低め」に設定されているため、平時は円と同じように、フランはキャリー(金利差)トレードの際の調達通貨の対象となります。キャリートレードは、金利の低い通貨を借り入れ(調達)、高金利国の資産で運用する方法です〉
〈しかし、ひとたび有事=経済・金融の非常事態が起こると、投資家は金利差を利用して資産を増やすことよりも、資産の目減りを防ぐため投資を解消する行動に出ます。その結果として、平時にキャリートレードのために売られていた円やフランは一転して、「安全な資産の避難場所」となり、買戻しされます(キャリートレードの巻き戻し)〉