今年3月いっぱいで、32年間活動してきた放送作家業(脚本家業なども含む)を引退した鈴木おさむさんが、引退直前の3月末に上梓したのが、小説『もう明日が待っている』(文藝春秋刊)。この本はある国民的アイドルグループのデビューから解散までを、放送作家である「僕」の視点から描いた物語。

 作中で明言されていませんが、そのアイドルグループが「SMAP」で、「僕」が鈴木さん自身であることは明白です。

『SMAP×SMAP』には最終回まで

SMAP ©文藝春秋

 1972年生まれで19歳のときに放送作家デビューした鈴木さんは、同学年である木村拓哉さんのラジオ番組を放送作家として担当し、信頼関係を築いていたことがきっかけで、1996年に放送開始した『SMAP×SMAP』(フジテレビ系)には、立ち上げ当初から最終回まで携わり続けました。

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 小説という体裁ですが、鈴木さん自身が本書について、「僕が僕の目で見た真実を記して、放送作家を辞める時に刊行すると決めました」と語っていますので、限りなくノンフィクションに近い作品だと考えていいでしょう。

読者は“小説”の残酷なラストを知っている

 誤解を恐れずに言うと、「楽しんで読める」とは思えませんでした。読み進めている最中も、最後のページを読み終えても、です。

 しかし、物語に没入して、一気に読み終えたのも事実です。

 この“小説”は、楽しく読むことができない物語。なぜなら残酷なラストを知っているから。楽しむ余裕なんてありません。

 本書の読後には、そういったさまざまな感情が押し寄せてきたのですが、そのなかのひとつに「鈴木おさむってこんなにもSMAPに近い存在だったのか」という驚きがありました。

鈴木おさむさん ©文藝春秋

 彼が『SMAP×SMAP』の中核を担う放送作家だということは知っていましたし、メンバーたちと懇意にしているのも知っていましたが、「ここまでだったとは……」という衝撃です。

 それが如実にわかるのは、「タクヤ」の結婚前後のエピソード。

 タクヤは2000年に結婚していますが、「僕」は結婚報道よりかなり前の段階で、タクヤから二人きりのときに直接「俺、結婚するんだ」と報告を受けています。

 さらに、結婚を正式発表する前にスポーツ新聞にすっぱ抜かれたときは、名物マネージャー「イイジマサン」に早朝から呼び出され、タクヤ、イイジマサン、僕の3者で会談した様子まで緊迫感たっぷりに綴られているのです。