灰原哀役・林原めぐみが「考えるだけで張り裂けちゃう」
青山のドキュメンタリーが放送された5月2日、灰原哀を演じた林原めぐみがブログを更新した。彼女は青山剛昌について、偉ぶらずナチュラルな人柄であることとともに、重大なことをまるで冗談のように、あるいは「まるで明日箱根行くんでよろしくねみたいな気楽な感じ」で明かすので「ビビります」と書いている。
「いつもいつも思う事
アポトキシン4869の解毒薬…
完全に完成したら…
そして組織の中枢にたどり着いたら
それは
サヨナラの日
探偵団には…
吉田さんに、円谷君に、小嶋君に…
何と言ってお別れするんだろう
なんて考えるだけで張り裂けちゃうので
ずっと頭のすみにはあるけれど
考えないようにしています。」
青山が林原に明かしたことがいったい何なのか、それはブログでは明かされていない。
「これだけは絶対に描きたい」
同日に放送された『プロフェッショナル 仕事の流儀』の中で、青山が2015年に体調を崩し、入院手術となった時の回想を語るシーンがあった。なんの病状でどのような手術をしたのかは番組内では語られず、当時の記録を調べても発表された形跡はない。
ただ、『ダ・ヴィンチ』誌上で「一番印象に残っているエピソードは」という質問に「この話だけは、この世に残したいと思ったから(笑)」と書き、『青山剛昌 30周年本』で「あれって、2015年に入院した時に描いたんですよ。入院して、今後はもう漫画が描けなくなるかもしれないと感じたから、これだけは絶対に描きたいって」と語った1話、正確には一対になった『蘭GIRL』と『新一BOY』という2話を挙げている。
それは新一と蘭の保育園時代の初めての出会いを描いた物語だ。この物語はそこから始まり、いつかそこに戻るのだろう。作者本人の「3ヵ月で終わると思ってた…」という予想を超えて、日本の映画史に名を刻むまでになった、2人の少年少女の一度きりの物語。
青山なしで『名探偵コナン』シリーズが成立しないことは、今年の『100万ドルの五稜星』の息を呑むようなラストを見た観客なら誰もが納得するだろう。『名探偵コナン』の世界観、キャラクターとの関係を根底から変えるようなあの衝撃の結末を決断し、観客を納得させることができるのは、原作者である青山剛昌をおいて他にはいない。彼だけが『名探偵コナン』を続けることができ、また彼だけが物語を終わらせることができるのだ。
彼が生まれた鳥取の街、「青山剛昌ふるさと館」で見た、東洋西洋を問わない外国からきたファンたちのことを思い出す。映画館で見た、制服の高校生たちを思い出す。彼らにとって『名探偵コナン』はまだ、始まったばかりの物語かもしれないのだ。続けるべきか、それとも美しく完結させるべきなのか。それは青山以外の誰にも判断できない。
ただ一つ言えるのは、新一と蘭がそうであるように、観客である我々も繰り返しではない、たった一度の時間を生きているということだ。青山剛昌が『名探偵コナン』を描き、春になると日本中の映画館が観客で溢れた時代。人の手と声でアニメーションが作られていた時代。仮にもし永遠ではなかったとしても、それは幸福な時代として歴史と記憶の中に残るだろう。