死亡者は7人…2008年、秋葉原で平成最悪の通り魔事件を起こした加藤智大。死刑を言い渡され、それを待つ間に加藤に起きた「目に見える異変」とは? 理髪係として複数回、加藤と相対したガリ氏による初の著書『死刑囚の理髪係』(彩図社)より一部抜粋してお届けする。(全2回の2回目/前編を読む)
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その後の加藤死刑囚
出所までの約2年間、私はその後も何度か加藤死刑囚の理髪を担当した。
加藤は2回目の理髪まではマネキン人形状態だったが、3回目以降は多少人間味のあるような行動もとるようになった。いくらかは私のことを信用してくれるようになったのかもしれない。
ある日の理髪作業中、加藤はか細い声で私にこう尋ねてきた。
「髪が薄くなっていませんか?」
加藤は始めと終わりの挨拶以外に余計なことを口にするタイプではなかったので、私は驚きを隠せなかった。
正直言って、少し前から加藤の頭髪が異常をきたしていることには気づいていた。100円玉サイズの円形脱毛が、後頭部に目立つようになっていたのだ。最初は数箇所だった脱毛がみるみる10箇所ほどに増え、頭皮は赤くただれ、何度も掻きむしった痕があった。
その時期にはちょうど、施設内で「そろそろ加藤の死刑が執行されるのでは」という噂が流れていた。加藤は現行犯で逮捕されているため再審もない。また世間的にも大きく認知されている事件なので、見せしめ的な意味合いも込め、早めに執行されるだろうと全員が踏んでいたのだ。
――噂が、加藤本人の耳にも入ったのかもしれない。
私は直感的にそう思った。というか、そう思わざるを得ないほど、加藤の頭皮には苦悩と恐怖が入り混じった極限の精神状態が表れていた。
正直に言おうかとも思ったが、結局私は、「いえ、変わりないですよ」と返事をした。
これ以上彼に精神的な負荷をかけるのは得策ではないと思ったのだ。
「最近の加藤は荒れてるみたいなんで、気をつけてください」と直前にメガネくんに言われていたことも大きかった。
加藤の死刑は、大方の予想から3年ほど遅れて執行された。
私が出所した後の話だ。
また別の日には、加藤の左耳の裏をバリカンで切って出血させてしまったこともあった。