その真相は結局わからないままだったし、今となってはもう確かめようもない。

一瞬だけ見えた、加藤の“人間”の部分

「死刑囚が見せた優しさ」なんて変な言い方だし語弊もありそうだが、あながち全く無い話でもないのではないか――どうも私には、そう思えてしまう出来事だった。少ないやり取りの中で、私は一瞬だけ加藤の“人間”の部分を見た気がした。

送検される2008年の加藤智大 ©文藝春秋

 なぜこの男が通り魔なんか――その疑問が頭から離れず、私は出所後に加藤の生い立ちを調べたことがある。そこで得た情報によると、加藤は幼少期、厳格な両親のもとで異常なまでにシビアな教育を受けていたようだ。

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 勉強ができないと風呂に沈められたり、わざと床に落とされた食事を「食べろ」と命令されたり、そのような虐待は日常茶飯事だったらしい。そこで溜め込まれた強烈なストレスや苛立ちが、彼の心に渦巻く闇を形作っていたのかもしれない。

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