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9歳で事故に遭い「頭を打って終わった子」扱いに…友達の“やさしい母親”が放った「冷酷な一言」

『抗う練習』

2024/06/06

genre : ライフ, 社会

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 その理由を挙げていったらきりがありませんが、なかでも顕著だったのは「ほめられたことがない」という点です。なにをするにしても「できて当然」としか評価されず、ほめられたことがなかったのです。

 同じような経験をした方もいらっしゃるでしょうが、あとになって考えてみても、やはりこれは子どもに大きな影響を与えることだと思います。

つねに自信が持てなかった

 事実、(もちろん当時は自覚していませんでしたけど)僕はつねに自信が持てず、緊張感を抱えながら生きてきたように思います。だから幼少時から、「自分はなんなのか? 自分は自分のままでいいのか?」という本質的な部分を解消することができなかった。

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 しかし、その反面で前述した「負けてたまるか」という思いや、そこに絡まる根拠のない自信もあったのですから、自分でもなんだかよくわかりません。早い話が、バランスがとっても悪かったのです。バランスの悪さは、いまもあんまり変わらないんですけどね。

 そんな環境の影響だったのか、幼いころから不眠症でした。布団から出て「眠れない……」と居間に顔を出すたび、母は「また『ねむれな~い』がはじまった」と大笑いするのですが、こちらにしてみればそんな夜はストレスを溜め込むための時間でしかありませんでした。

 加えて、そのころはチック症を抱えていました。当時はそれらがストレスの影響であるなどとは考えもしませんでしたけど、振り返ってみれば「ああ、そうか、精神的に安定していなかったんだな」と妙に納得できてしまう部分は残念ながらあるのです。

母の言葉にモヤモヤした想い

 ちなみに数年前、母は初めて「たしかに私はあなたのことをほめたことがなかった。申し訳なく思っている」と言ってくれました。

 そのため一件落着……となったのであれば美しくまとまるのですけれど、残念ながらそうはいきませんでした。なぜならその時点で僕は57歳、還暦直前だったのです。

 ですから正直なところ、「いまさらそんなことをいわれても……」という気持ちが残ってしまったことは否定できず、以後もモヤモヤとした想いだけが残ることになったのでした。

抗う練習

抗う練習

印南敦史

フォレスト出版

2024年5月22日 発売

9歳で事故に遭い「頭を打って終わった子」扱いに…友達の“やさしい母親”が放った「冷酷な一言」

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