児童虐待、DV、ハラスメントなどが起こる背景には、加害者の過去の「トラウマ」が影響しているのではないか――。そう語るのはノンフィクションライターの旦木瑞穂さんだ。
2023年12月に刊行した『毒母は連鎖する~子どもを「所有物扱い」する母親たち~』(光文社新書)などで、家庭内で起こる“タブー”を調べていくうちに、親から負の影響を受けて育ち、自らも「毒親」となってしまう「トラウマの連鎖」こそが、現代を生きる人々の「生きづらさ」の大きな要因のひとつではないかと考えたという。
今回は、自身の“モラハラ加害者”の過去に向き合いながらカウンセラーとして活動する中村カズノリさん(44)に、「トラウマの連鎖」を断ち切るための日々を尋ねた。(全3回の1回目/続きを読む)
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人が生きるところに「トラウマ」あり。
家庭や学校、職場やサークルなど、社会で生じる「トラウマ」の多くは、連鎖していく傾向にある。
無意識に受け継いでしまった「トラウマ」こそが、現代を生きる人々の生きづらさの大きな要因のひとつではないだろうか。
そんな「トラウマ」の連鎖を防ぐ手立てを導き出したい。
「どうしてわかってくれないんだ!」
関東在住の中村カズノリさん(現在44歳)は、27歳のときに友だちの紹介で3歳年下の女性と知り合い、28歳で入籍。ところが入籍から2年目、結婚式を挙げた直後に、妻の不倫が発覚した。不倫相手は中村さんも顔馴染みの男性で、近所に住んでいた中村さんと妻の共通の友人が教えてくれた。
「当時は仕事が忙しくて妻と会話らしい会話もままならず、たまのコミュニケーションも上手くできていなかったという負い目はありました。でも、結婚式を挙げた直後のタイミングでの不倫発覚は、私にとってものすごくショックな出来事でした……」
2人は何度も話し合い、妻の方にも事情があったということを理解した中村さんは、今回の不倫については水に流し、「またお互い信用を構築し直していこう」というところに落ち着いた。
しかし「不倫された」という事実はなかなか忘れられるものではない。辛い気持ちが上手く消化できず、それは日に日に大きくなっていった。
それからだった。
気がつけば中村さんは、「モラルハラスメント」をするようになってしまっていた。
「世間一般で『モラハラ』と呼ばれる行為には様々なものがありますが、私は、無視、大声で怒鳴る、物に当たる、相手の価値観や能力の否定、相手に自分が悪いと思わせる……といった行為をしてしまっていました」
民法では不貞行為の時効は3年。これを過ぎると不倫相手への慰謝料の請求は難しくなる。だから逆に「3年経ったら本当の意味で水に流せる」そんなことを考えていたと中村さんは言う。
そして不倫発覚からあと少しで3年という頃、運命の日は訪れた。
中村さんは妻との意見の食い違いから口論になり、爆発。
「どうしてわかってくれないんだ!!!!」
あらん限りの声で叫び、鬼の形相で本棚の本をぶちまけていた。