児童虐待、DV、ハラスメントなどが起こる背景には、加害者の過去の「トラウマ」が影響しているのではないか――。そう語るのはノンフィクションライターの旦木瑞穂さんだ。
2023年12月に刊行した『毒母は連鎖する~子どもを「所有物扱い」する母親たち~』(光文社新書)などで、家庭内で起こる“タブー”を調べていくうちに、親から負の影響を受けて育ち、自らも「毒親」となってしまう「トラウマの連鎖」こそが、現代を生きる人々の「生きづらさ」の大きな要因のひとつではないかと考えたという。
今回は、自身の“モラハラ加害者”の過去に向き合いながらカウンセラーとして活動する中村カズノリさん(44)に、「トラウマの連鎖」を断ち切るための日々を尋ねた。(全3回の3回目/最初から読む)
◆◆◆
ファシリテーターの裏切り
妻の不貞行為が忘れられず、ついに感情を爆発させてしまった中村さん。実家に帰ってしまった妻から勧められた「DV加害者更生プログラム」は、毎週2時間、1年に52回通うというものだった。女性のファシリテーターと5~6人の男性参加者で進められ、最初に自己紹介として、名前、年齢、どんな加害行為をしたか、警察の介入はあったか、現在の状況、アルコール依存があるかなどを話した。
「年齢は20代~60代と幅広く、見た目からはとてもDVをしたとは思えない印象の方ばかりでした」
グループワークは、まずは前回のプログラムからその日までにあったことを参加者たちが共有する「先週の振り返り」を行い、ファシリテーターが評価した後、教材を使ったワークに1時間ほど取り組んだ。
「『先週の振り返り』では、参加者の思いがファシリテーターにほぼ否定されていたため、重苦しく感じました。確かに、DVやモラハラをした人の感じ方や思いは、被害者側からすれば否定したくなるものかもしれませんが、ファシリテーターは参加者たちに、いかにして責任を取るかといった反省や考えの矯正ばかり迫っていたように感じます」
それでも中村さんは、真面目にプログラムに通い、学ぶことに精力を傾けた。
ところが、プログラムに参加し始めて6ヶ月ほど経った日。
いつものように「先週の振り返り」を行い、グループワークに入ろうとした際に、他の参加者の前でファシリテーターが、「中村さんのパートナーは以前、不倫をしたことがあります」と言い放った。