かつて21歳の恋人の首を絞めたとして、殺人罪に問われた元ホスト。「危険ドラッグ」による死亡を主張したが、裁判所はどう判断したのか? 2014年に起きた事件の顛末を、ノンフィクションライターの諸岡宏樹氏の著書『実録 性犯罪ファイル 猟奇事件編』(鉄人社)より一部抜粋してお届けする。なおプライバシー保護の観点から本稿の登場人物はすべて仮名である。(全2回の2回目/最初から読む)

写真はイメージ ©getty

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ブラジリアン柔術で恋人を失神させようとしたら…

 いつものように薬物セックスにふけって、夕方まで惰眠をむさぼっていたところ、郁美さんが突然近付いてきて、「こんな表現しかできんでごめんね」と言いながら沢崎の指を噛んだ。

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「いててて…、やめろっ、何するんだっ!」

 必死で引き抜こうとしたが、指がちぎれそうになっても放さない。沢崎はブラジリアン柔術の絞め技を使って、郁美さんを失神させようとした。

 しばらくするとおとなしくなったが、手を緩めた途端、また暴れ出した。沢崎は再び首の頸動脈を絞めたが、今度は崩れ落ちるようにして動かなくなった。

「おい、どうした?」

 胸に耳を当てると、心臓が動いていない。呼吸もしていない。うろたえてビンタしたり、人工呼吸を試みたが、それでも郁美さんは目を覚まさなかった。

「どうしよう…。このまま救急車を呼べば自分が殺したことにされてしまう。警察を呼ばれたらクスリを使っていることもバレてしまう。ヤバイ…、どうしたらいいんだ…?」

 沢崎はこれまで自分が築き上げてきたものがガラガラと音を立てて崩れ落ちる恐怖を感じた。家にいるのが怖くなり、元カノの一人に電話した。

「会いたいんだ。今夜一緒にいてくれないか?」

「いったい、どうしたの?」

「とにかく会いたいんだ!」

「フフフ…、いいわよ」

 沢崎は元カノと投宿し、懲りもせずにセックスにふけった。さらに別の元カノに犯行を告白し、自宅に招いて遺体の上に宗教の本を置くという“儀式”を行った。自分の母親にも話し、その後に行方をくらました。

 警察は沢崎を殺人容疑で逮捕した。ところが司法解剖の結果、郁美さんの遺体からは大量の危険ドラッグの成分が見つかった。

 中でも多かったのが「合成カンナビノイド」という成分で、これは当時、1年間で112名もの死者を出したという厚生労働省の統計があるほどの悪名高い危険ドラッグだった。