これには中村さんはもちろん、参加者全員が驚いた。中村さんは、「妻の不倫については絶対に内密に」とお願いしていたにも関わらず、許可もなく参加者のプライバシーを暴露するという行為が信じられなかった。
ファシリテーターは、「DVに関係することですから、秘密でも何でも話します。そもそもプログラムを受ける前に書面にサインされましたよね。そこにはその旨記載されています。それにこれは皆で考える為の教材になりますから」と平然と言った。
「私は目の前が真っ暗になりました。信頼して相談した結果がこれとは……。自責の念やファシリテーターへの怒りで感情がぐちゃぐちゃになったのを覚えています」
「参加をお断りいたします」というメール
その日はただ一言、「私はあなたの行動と言葉でものすごく傷つき、怒りを感じています」とだけファシリテーターに伝えて帰った。まさにプログラムで教えられた、「感情を丁寧に伝える」という実践だった。
その後、精神的に不安定になった中村さんは、「もうどうにでもなれ!」と自暴自棄になり、妻に対して不倫が未だに許せないことや、不倫はDVと同じだとファシリテーターが言っていたことなどをぶつけてしまう。
そして次のプログラムの日。ファシリテーターから「参加をお断りいたします」というメールが届いた。
すぐにファシリテーターに電話し、「どういうことですか?」と訊ねると、ファシリテーターは面倒くさそうに、1週間ほど前に妻に送った「不倫はDVと同じ」というメールが、「プログラムで得た知識を悪用した」というルール違反になると言った。
直後、中村さんは極度の不安や怒りなどの感情に襲われ、過呼吸の発作を起こしてしまう。
そんな中ふと、以前ネットで見つけ、「いつか連絡してみよう」と思っていた「日本家族再生センター」を思い出し、電話をかけてみた。
すると、「日本家族再生センター」のメンズカウンセラー、味沢道明さんにつながる。
「味沢さんは、パニック状態の私が落ち着いて話せる状態になるまで待ってくれました。味沢さんが共感をもって話を聞いてくださったことで気持ちが楽になり、そのときの状況に対する自分の思いを言葉にできたと思います。振り返ると、この時に味沢さんに電話したことがその後の人生を変えたのだなと、大げさではなく思います」