父親による母親への暴力は頻繁にあったようだ。中でも中村さんが小学生の頃には、父親が母親を何度も何度も殴ったり張り倒したりしており、時には母親が泣きながら台所に行き、包丁を手に自殺を図ろうとするが、父親に包丁を取り上げられ、また何度も何度も殴られる……ということもあったという。
「父に掴まれて動けない母は泣きながら私に、母の実家に『今すぐ電話して』と懇願しますが、父からは『そんなことをしたらただでは済まさない』と脅され、結局何もできませんでした。その直後、母は私を連れて家を出たのですが、程なくしてまた家に戻りました。まだ幼かった私には、戻った理由はわかりませんでした」
日常的にDVをする人の多くは、ハネムーン期といって、人が変わったかのように穏やかになる時期がある。もしかしたら中村さんの父親にもハネムーン期があったのかもしれないし、力ずくで連れ戻されただけかもしれない。いずれにしても、父親から母親への直接的な暴力も、父親が母親の人格や価値観を否定するような暴言を浴びせて威圧するようなことも、当時の中村家では珍しくないことだった。