4月2日、トランプ米大統領が「相互関税」を発表し、世界に衝撃が走った。

 そもそも「相互関税」とは何か。当初は「相手国が米国に課す付加価値税(日本の消費税)などの非関税障壁まで調査し、米国の関税を同等の水準にまで引き上げる」ものとされていた。ところが実態は、〈相手国との貿易赤字額を米国への輸出額で割り、その数字を2で割る〉という“机上の空論”で杜撰極まるものだった。

 なかでも世界を驚かせたのは、日欧韓など「同盟国」にも「敵対的」な高い関税を課したことだ。これに対して「自由貿易体制を守れ!」という非難の声が上がっている。

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トランプ大統領 ©時事通信社

「保護貿易が必要だ」という現実認識自体は正しい

 そんななかで、「保護貿易が必要だ」という現実認識自体は正しい、と指摘するのは、仏の歴史人口学者・家族人類学者で、世界的ベストセラー『西洋の敗北』の著者であるエマニュエル・トッド氏だ。トッド氏は1998年刊の『経済幻想』以来、「自由貿易」の名の下に米国が世界からの輸入に過度に依存する(各国は米国への輸出に過度に依存する)世界経済システムは、国内格差などの歪みを生みだし、持続可能ではない、と指摘していた。その点で、トランプ政権の政策転換は、トッド氏の指摘を体現したものとも言える。

エマニュエル・トッド氏 ©文藝春秋

〈トランプとその側近たちは、欧州のエリートよりも、「現実」の認識においては知的に一歩進んでいます。「保護主義で自国の製造業を守るべきだ」「移民の流入はコントロールすべきだ」ということ自体は、常識にもとづく理性的な判断です〉

「憎悪」が原動力の政策転換は危険

 しかし問題は、そうした「革命」にも等しい政策の大転換が「憎悪」を原動力にしていることだ。

〈しかしその主張の裏には、米欧のエリートに対する憎悪といった強烈なルサンチマンが渦巻いている。ヴァンス副大統領の自伝『ヒルビリー・エレジー――アメリカの繁栄から取り残された白人たち』からは、「民衆への愛情」よりも「エリートへの憎悪」が上回るようなネガティブなパッションを感じます〉

〈保護主義も、他国と協調して賢明に実施しなければ、成果は得られません。保護主義的措置から利益を得る勤勉で優秀なエンジニアや労働者が不在のなかで、被害者意識で関税報復合戦を行なえば、インフレが起こり、生活水準の低下を招くだけです。他国からの輸入品に頼ってきた米国経済こそ行き詰まる〉