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生まれて初めてシェルターの外へ出ると…「血飛沫が舞い、肉が砕け散る」世間知らずの若い女性が見た"修羅の国”

2024/06/02
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 映画『オッペンハイマー』で原爆開発を描いたクリストファー・ノーラン。彼の監督作『ダークナイト』『インターステラー』などで脚本を務めた実弟のジョナサン・ノーランもまた、同時期に「核」をテーマとする作品を手掛けていた。核戦争後の世界が舞台の人気ゲームを基に創作された実写ドラマ『フォールアウト』だ(Amazonプライムビデオで配信中)。

 舞台は2077年に勃発した核戦争から約200年後の米国。生き残った人類は「Vault(ヴォルト)」と呼ばれる隔絶された地下シェルター内で平和に暮らしていた。皆が同じ青いスーツを纏い、隣人を思いやって暮らす同調圧力強めのムラ社会。そこで生まれ育ったうら若き女性、主人公のルーシーは謂わば“純粋培養”の人類だ。人を疑ったことがなく「性善説」がモットー。そんな彼女はある日、悲劇に見舞われ、生まれて初めてシェルターの外に出る。荒廃し、砂漠化した地上の世界。放射能で汚染された土地をグロテスクに変異した生物が闊歩する。街ではゾンビのように鼻が欠け落ちた不死身のガンマン、グールに遭遇。真っ昼間から銃撃戦が繰り広げられ、血飛沫が舞い、肉が砕け散る。世間知らずのルーシーは突然、自分以外の誰も信じられない「性悪説」の世界に迷い込んだのだ。地下の不気味な「管理社会」と地上の無秩序な「修羅の国」。かくして彼女は両極端な2つの世界を彷徨い歩くことになる。

©佐々木健一

 殺伐とした終末世界の物語だが、本作のテイストはあくまでブラック・コメディだ。血生臭いシーンに敢えてオールディーズの音楽を当てる。「音と画の対位法」を用いてより人間の愚かさを引き立たせている。ビジュアルも「黄金の50年代」を彷彿とさせるオシャレな“レトロフューチャー”のデザイン。「豊かで輝かしい未来」のイメージが逆説的に効く。シニカルな笑いを誘いながら「人間の本質とは何か?」を問う作品だ。

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『フォールアウト』
https://www.amazon.co.jp/dp/B0CN4J6V1Z

生まれて初めてシェルターの外へ出ると…「血飛沫が舞い、肉が砕け散る」世間知らずの若い女性が見た"修羅の国”

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