古畑を作り上げた田村正和の“イメージ”
まずは、 “古畑任三郎”という唯一無二のキャラクターの存在感だ。本作が名作たる所以は「いきなり種明かしするにもかかわらず、ラストまで視聴者を夢中にさせる三谷幸喜の圧倒的なストーリーテリング」と「古畑任三郎というキャラクターの魅力」という二本柱の圧倒的な強さにあるだろう。
そして、古畑のブランディングを築いたのは、やはり田村正和である。三谷が思い描いていた“お洒落でスタイリッシュな刑事”像は、他でもない田村だからこそ実現され、田村の存在をもってしてはじめて、古畑は完成した。
田村の徹底した役作りも、古畑のブランディングを守っていた。事件が起こるとふらっと現れて、解決するとふらっと去る古畑のミステリアスなイメージを確立させたのは、役を演じる田村自身が作品以外でほとんど露出することがなく、プライベートも謎に包まれていたからだろう。SMAPの楽曲「青いイナズマ」の歌詞に出てくる“ゲッチュ”の正体を木村拓哉に聞いたり、『ポンキッキーズ』に詳しかったりと、古畑のメタフィクション的なネタが光ったのも、田村のエレガントなイメージが根底にあったからだ。
“お茶の間の娯楽”として挑戦しつづけた
もう一つは、『古畑』が一貫して“お茶の間の娯楽”でありつづけたからではないだろうか。全43話はすべてテレビドラマとして放送されており、劇場版は一つもなかった。同じくフジテレビの看板作品であった『踊る大捜査線』シリーズと比べると、その違いは顕著だろう。
しかし、『古畑』はテレビドラマという枠組みの中で、さまざまな挑戦をしつづけた。“閣下”と呼ばれる松本幸四郎(現在は松本白鸚)ゲストのスペシャルドラマは映画級の見応えがあるし、田村とゲストで登場した津川雅彦の二人芝居にフォーカスした回は、さながら舞台を見ているようだった。
ドラマの有料配信限定コンテンツが普通になった今は考えられないが、第2シリーズでは、本編を放送した深夜に、その後日譚であるミニドラマ『巡査 今泉慎太郎』(フジテレビ系)を同じ地上波の枠で流していた。テレビが盛り上がっていた時代、テレビドラマの可能性を信じて、『古畑』はテレビドラマのさまざまな楽しみ方をお茶の間に提供していたのだ。