歌手から声を奪うとは、神はなんと過酷な試練を与えるのだろう。
RCサクセションの忌野清志郎さんと、シャ乱Qのつんく♂さん(以下♂は略)。一世を風靡したロックバンドのボーカリスト二人は、ともに喉頭がんに襲われた。
2008年2月10日、「忌野清志郎 完全復活祭 日本武道館」という名で敢行された清志郎さんの復帰ライブの冒頭に流された映像は感動的だった。
抗がん剤の影響だろう。ツルツルになった頭から、髪の毛が少しずつ生えていき、最後にはツンツンに髪の毛を立てた、いつもの清志郎さんの姿に戻っていく。
闘病中、毎日撮影したと思われる写真を何枚も重ねて作ったこの映像を見ると、復活への執念が感じられ、胸に迫るものがある。その後に登場した生身の清志郎さんの歌声も、声帯のがんを患ったとは思えないほどの、往年と変わらない力強いものだった。
筆者はこのライブをDVDで見たが、生で観た人たちも、まさかこの1年3ヵ月後(2009年5月2日・享年58歳)に、清志郎さんがこの世を去るとは思わなかったのではないだろうか。
闘病中の詳しい様子は公表されていないが、報道などによると、06年7月に喉頭がんと診断された清志郎さんは、手術をすると声を出せなくなることから、最初は化学放射線療法を選択したようだ。
だが、この治療を続けると唾液が出づらくなり、歌いにくくなる可能性があるため、これを途中で拒絶して、玄米菜食などの代替療法に切り替えたとされている。
そして武道館での完全復活祭を迎えるのだが、その5ヵ月後には左の腰骨に転移が見つかり、活動中止を余儀なくされた。転移が治療中止の影響かどうかはわからない。清志郎さん本人が、それをどう受け止めたのかも不明だ。
だが、清志郎さんが「歌」を選び、武道館で劇的な復活を遂げたことは確かだ。その姿は、強烈にファンの心に刻み込まれた。まさに、ロックな生き様だった。