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「人間としてのスペックを不動産物件で測られる」“腐敗”と“面子”で読み解く中国不動産バブルの深い闇

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不動産バブルは崩壊している

 高口 しかし、中国の庶民はそれでも家を買おうとします。そこには、日本人以上にマイホームに執着する中国人の気質もありそうです。

  執着の理由はまず、中国人が1990年代までマイホームを持てなかったことへの反動。2番目の理由が面子(めんつ)です。たとえば、同級生との食事会で必ず出る話題は、どんな家やクルマを買ったか。また、「マイホームを持っていない男性とは結婚しない」という女性も多い。婚活のプロフィールなどでは「〇〇平米以上を希望」とまで書いています。

 安田 中国の婚活男性は、人間としてのスペックを不動産物件で測られてしまう。これは悲しいですね。

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  また、中国では賃貸が流行らないという事情も大きい。賃貸は契約が必要ですが、中国は契約を守る文化が根付いていない。加えて、中国人は「出したお金が返ってくる」ことにもこだわりがあります。

 なので、たとえば家を10年借りて家賃を払い続けて、退去時に1銭も戻ってこないのはイヤ。賃貸トラブルもあるかもしれない。それならマイホームを買おうとなる。しかし若者はお金がありませんから、親にお願いして老後の資金を取り崩してもらい、頭金にします。

 安田 日本よりも家族関係が濃厚な中国ならではですね。

安田峰俊氏

  中国では、家が完成していない工事段階の状態でもローンが発生します。なので、マンションを買ったのにデベロッパーが倒産して入居できないという悲劇も発生します。不動産バブルの崩壊で、そうした人はさらに増えるでしょう。

 加えて最近は、政府が不動産価格の動揺を抑えるため、家を売りに出す際の最低価格を設定している。しかし、この価格は高く、ほとんど買い手がつかない。安値で売ろうとしても、システム上ではねられてしまう。売るに売れず、物件が塩漬けになる人が続出しています。

 高口 中国の不動産価格が、現時点では「大暴落」していないことを根拠に、バブルはまだ崩壊していないと分析する専門家もいますが、そのからくりが見えてきましたね。

  そうです。しかし、取引件数は激減し、デベロッパーの倒産や債務超過も続発している。明らかに不動産バブルは崩壊しています。

 安田 日本のバブル崩壊は、不動産から金融へと混乱が波及しました。結果、長銀や山一をはじめ、日本債券信用銀行や北海道拓殖銀行などが次々と経営破綻しています。

  不動産バブルは必ず金融危機とリンクします。中国の現状はよく「中国の日本化」と言われますが、私はすこし異論があります。なぜなら、日本より広い範囲に深刻な影響をもたらす可能性があるからです。

 たとえば日本の場合、バブル崩壊後も社会不安は起きませんでした。普通であれば、金融機関が破綻すると、預金を取り戻したい顧客の取り付け騒ぎ(バンクラン)が起きます。私が長銀総研に勤務していた時代、ムーディーズがワリチョー(長銀が発行していた長期信用債券)の信用格付けをガクッと下げ、経営破綻が決定的になった。当時、私のオフィスは大手町の旧本店2階にあって、下は長銀の大手町支店でした。そこで、「今日は日本人のバンクランが起きるだろう」と、野次馬気分で下に見に行ったんです。

柯氏の近著『中国不動産バブル』(文春新書)

 高口 教科書に載っているような、金融恐慌の現場を見られるぞ、という気持ちですか(笑)。

  見たかったのは確か(笑)。でも、1階に行くと、数人の高齢者がワリチョーの解約に来ていただけでした。つまり、日本では銀行が破綻しても社会不安が起きなかった。

 理由は日本の預金保険制度です。政府が預金を保証しているから、万が一金融機関が破綻しても、預金は一定の金額まで保護されます。日本人はその制度を信用しているので、バンクランしなかったわけです。

全文は「文藝春秋」2024年6月号と「文藝春秋 電子版」でご覧いただけます(柯隆×高口康太×安田峰俊「中国不動産バブルのキズは深い」)。なお、本記事は4月10日に「文藝春秋 電子版」で配信されたオンライン番組をもとに記事化したものです。

「人間としてのスペックを不動産物件で測られる」“腐敗”と“面子”で読み解く中国不動産バブルの深い闇

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