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為替取引の戦略の立て方

 戦略の話に戻ると、雇用統計が事前の市場予想を上回るというYESのシナリオの場合、教科書的には堅調な米経済を反映して、米株価は上昇、為替市場ではドル高、インフレ過熱から米金利上昇となります。ただし、市場が既にこの情報を織り込んでいるなら、統計公表後の株価上昇も、ドル買いも、金利上昇も限定的となります。

 一方、雇用統計が予想を下回るというNOのシナリオの場合は株安、ドル安、金利安へ。事前の市場予想の織り込み方が十分なら反応が限定的に、不十分なら株安、ドル安、金利安が加速します。

国際的な金融取引のイメージ ©beauty_box/イメージマート

 相場格言にBuy the rumor, sell the fact(噂で買って、事実で売る)がありますが、十分過ぎるほど事前に情報(噂)を織り込んでいると、実際にニュースや経済指標の公表(事実)となった場合には、予想に反した動きになる、との戒めです。

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 例えば、市場の事前の織り込み具合(最小・中庸・最大の3パターン程度)をよくよく鑑みたうえで、NOのシナリオなら、米ドルは対円、対英ポンド、対ユーロなど、どの通貨に対して最も売られそうか(通貨ごとの3パターンを2次元の曲線図上に描く)。金利は3か月、6か月、9か月、12か月先でみた場合、どの辺りでどの程度の金利低下になるのか(山脈を描く)。では逆にYESの場合であればどうなのか、をそれぞれ考えます。

 壮大なマトリクスをもとに航海図のようなものを頭の中に作り上げるわけですが、仕上げる途中で、通貨ならこれとこれ、金利ならこことここの期間、と「ひずみ」が浮かび上がることがあります。また、市場が極端な楽観や悲観に偏ると、「ひずみ」は大きくなります。それが解消される際には収益機会が増すことになります。相場の取引手法はディーラーやトレーダーの数ほどあるものですが、私自身はそうした「ひずみ」を見つけ、それが解消されるタイミングを狙う取引で収益が上げやすかったという実感があります。

 もちろん、どんなに事前準備をしても万全ということはありません。そこで、全ての取引の際には、必ず損切りのための「反対売買」もセットで発注して備えます。ピタッと予想がはまれば収益が出ますし、事前のシナリオに反してもこの方法をとる限り、想定以上に損失が出ることはありません。これで致命的な傷を負うのを避けられます。

 新NISAやiDeCoのアプローチとは全く違い、アウトライト取引(買いなら買い、売りなら売りだけの取引を単独で行うこと)の場合は、「損切注文は身を助く」というのがまさに現場での実感です。

 そんなことを10年近く続けていると、読書百遍意自ずから通ず、ではないですが、相場を何の気なしに眺めているだけでも、この類の「ひずみ」をふとした違和感として知覚するようになりました。