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世界の緊張は高まっている

 アメリカはすでに緊迫する世界情勢に対して様々な対策を講じてきました。たとえば、2021年にアメリカ、イギリス、オーストラリアの3国間でAUKUS(オーカス)という同盟を組みました。これはオーストラリアの原子力潜水艦開発を支援する名目で始めた軍事同盟です。他にもアメリカはフィリピンと協力体制を築き、アメリカ、韓国、フィリピンの3カ国で軍事演習を行う同意をとりつけました。

ドナルド・トランプ氏 ©時事通信社

 トランプが再び大統領になってもならなくても、アメリカは防衛費を2022年度のGDP比2.85%から3.5%ぐらいまで増やさなければならないでしょう。レーガン政権(1981〜89年)のときのように5、6%まで上げなければならないかもしれません。あの頃は冷戦の終盤でソ連の脅威が著しく高まっていたので、防衛費もそのレベルまで上がりました。現代の「脅威」は、国際的なテロなど常に警戒しなければならない日常レベルの「脅威」だけではありません。ありとあらゆる「脅威」です。我々は核拡散、サイバー戦争、宇宙戦争すべてを含む脅威に備えなければならない時代に生きています。

「アメリカの国力は非常に限られていて、主な脅威は中国である。そして中国の今の主な関心は台湾にある。であれば、ウクライナ戦争や中東の戦争に目を奪われずに、アメリカは中国、特に台湾に集中すべきだ」という主張がよくなされます。しかし、私はそれとは異なる意見を持っています。

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防衛費増が必要

 アメリカが大国であり続ける能力を持っていることは明らかです。その地位を維持するには、さらなる国力が必要です。だからこそ、アメリカは防衛費を増やさなければならない。世界の安定を保つことでアメリカは繁栄し続ける。アメリカの経済力であれば、それを実現することは容易に可能です。ですから、アメリカがヨーロッパや中東のことは忘れてアジアだけに重点を置くのは、戦略的に間違っています。アメリカが一つの地域から目を離せば、必ずその隙に中国やロシアなど他の敵対国が足を踏み入れてくるからです。

 私が最も危惧しているのは、中国の脅威だけに専心していればいい、という考え方をしているうちに、アメリカがある種の「孤立主義」に陥ってしまうことです。

 アメリカが防衛費をGDPの5、6%まで上げるとなると、同盟諸国に対して、3、4%まで上げるよう求めるのは当然です。再選されたトランプがそれを要求しても私は驚きません。

 今年の3月、イギリスのグラント・シャップス国防相が、将来的にイギリスの防衛費をGDP比3%まで上げることを考えていると発言し、ヨーロッパで活発な議論が行われるようになりました。

 NATO(北大西洋条約機構)は今年で設立75周年を迎えましたが、その将来についても多くの議論がなされています。今まさに我々は適切な防衛費支出がどれぐらいなのかを再検討している最中です。NATO諸国が直面している脅威は増すばかりで避けられないからです。

 今年2月のサウスカロライナ州の選挙集会で飛び出した、トランプのNATOに関する発言が物議を醸しました。かつて大統領としてNATO首脳会議に参加した際に、ある大国の大統領から「我々が防衛費を十分支出せず、ロシアから攻撃を受けたら、守ってくれるか」という質問を受け、「いや、守らない。ロシアにやりたいことは何でもするよう奨励するだろう」と答えた、というのです。これはヨーロッパの同盟国に防衛費の増額を認めさせるための脅しなのか、それとも本気でNATOを離脱するつもりなのか。それをめぐって議論が湧き起こりました。

本記事の全文は「文藝春秋 電子版」に掲載されています(「トランプは独裁者のカモになる」)。