『東京カウボーイ』で、ついにアメリカ映画デビュー&初主演を果たした井浦新。出張先のモンタナで人生を見つめ直すサラリーマンをどう演じたのか。

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──脚本を読んで、「サカイヒデキ」という役をどう感じましたか。

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井浦新(以下、井浦) ヒデキは、日本の大手食品商社に勤務するエリートサラリーマンです。いわゆる「勝ち組」で、自分が正しいと思っている目の前の景色だけがすべてで、広い世界を見ることなく毎日を生きている。そんな頑固で頭でっかちのヒデキは、誰もがなり得る姿なのではないかと思いました。

井浦新 ©深野未季/文藝春秋

 この作品は、そんな負けを知らなかったヒデキが、負けを受け入れて認めることで成長する物語でもあります。彼の姿を通して「自分の人生は自分でアップデートできる」ということも、多くの人に伝えられるのではないかと感じました。

是枝裕和、若松孝二から教わったこと

──ヒデキとご自身は似ていると思いましたか?

井浦 僕とヒデキは、まったく違います。

 でも、マーク(・マリオット)監督からも「君の芝居を観ていると、その世界に存在している人にしか見えない。君は本当に芝居をしているのか」と言われたことがあるので、多くの方に「役柄=井浦新」という誤解を与えているところはあるかもしれません。もちろん、芝居はしています(笑)。

──マリオット監督は、井浦さんのその「芝居をしない」演技に惹かれて今回のオファーにつながったとお聞きしました。

井浦 マーク監督とプロデューサーのブリガム・テイラーさんが、僕の出演作をていねいに観てくれて、僕の自然で純粋な演技がいいとオファーをくださったんです。

「井浦さんが映画初主演した『ワンダフルライフ』(99年)を観て以来、井浦さんの大ファンになった」(ブリガム・テイラープロデューサー)「映画『朝が来る』(20年)での自然な演技と純粋さにも心を動かされた。ヒデキを演じられるのはアラタしかいないと思った」(マーク・マリオット監督) ©『東京カウボーイ』

 僕は、俳優としての生みの親でもある是枝裕和監督からも、育ての親の若松孝二監督からも「表面的な芝居をしない」ことを教わってきました。役を心の芝居で演じ、自分の心がどう動いたかを見せてくれ、と言われてきたんです。

 そんな僕のスタイルを高く評価いただいたことは嬉しかったです。「普遍的なヒデキという役柄に自然に血を通わせられるのはアラタしかいない。アラタがやってくれなければ、僕らはこの映画を撮る必要がない」とまで言っていただき、涙が込み上げてきました。

©『東京カウボーイ』

 僕はこれまで、「瞬間の最大を常に更新し続ける」という気持ちで、役や作品に向き合ってきましたが、ちゃんと観ていてくれる人がいたこともありがたくて、ぜひやらせてくださいとその場でお返事しました。