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“ダンボ”と呼ばれる白人貧困層の女性がラッパーを目指す

 打って変わって、アメリカのニュージャージーを舞台にした『パティ・ケイク$』は、白人貧困層の女性がラッパーを目指す物語。23歳のパティ(ダニエル・マクドナルド)は酒浸りの母と、車椅子生活の祖母との三人暮らし。パティはバーのカウンターで働いていますが、バイト代は母親がたかりにくる酒代に消え、祖母の医療費も借金となってかさんでいます。そんな中でもパティが抱いている夢は、女性ラッパーとして成功すること。

 パティはかなり太目な女の子で、地元の意地悪な知人男性からは“ダンボ”というあだ名で呼ばれています。ラップバトルでも体型は攻撃される要素となり、容赦ない嘲りは繊細なパティをひるませる原因になりますし、ラップバトルで勝っても、負けた男性から悔しまぎれの暴力を受けるなど厳しい出来事ばかり。でもパティがライブを観て興味を持った、インダストリアル系ミュージシャンであるバスタード(ママドゥ・アティエ)と出会った辺りから、映画は俄然面白くなります。

『パティ・ケイク$』はマイノリティ集団の物語でもある

 他人とは言葉も交わせないほど、コミュニケーションをとるのが苦手な黒人青年バスタード。でも彼もパティのリリックに関心を示し、二人の距離は縮まっていきます。彼らは自分たちをなによりも表現者と思っており、互いに相手の才能に引かれ、自分のメッセージも理解してもらえたと肌で感じています。この映画は、その敬意によって、異性として好みという単純さとは異なる、もっと心が溶け合うような恋愛の始まりのときめきに満ちているのです。

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主演のダニエル・マクドナルド ©getty

 パティの親友ジェーリはインド系の青年、バスタードはコミュニケーションに問題がある黒人で、パティの最大の理解者は車椅子生活の祖母というマイノリティ集団の物語。性別や人種、社会的弱者という要素は現在の日本においても非常にタイムリーな問題です。それに現実の世知辛さに溢れた、お伽噺とは程遠いストーリーからの、クライマックスの体温があがるライブシーンへの流れは見事。小品ながらゴールデンウィークにはうってつけの映画です。