整いつつあるサポート体制
一方、人工肛門のほうは、できるだけ不便がないようにサポートする体制がある。その2つが大腸がん患者の多い病院に開設されている「ストーマ外来」だ。人工肛門や人工膀胱を造設した人(オストメイト)に対して、セルフケアの指導や皮膚かぶれなどのケア、困りごとの相談など、定期的にサポートする窓口のことだ。
ストーマ外来のある病院は、日本創傷・オストミー・失禁管理学会(http://www.jwocm.org/)のホームページで検索することができ、2016年7月現在、全国で647施設が登録されている。また、オストメイトをケアする「皮膚・排泄ケア認定看護師」の資格を持った看護師も、全国で2000人以上が活躍している。
さらに、排泄物の処理がやりやすい「オストメイト対応トイレ」も増えている。全国各地の公共施設やショッピングモール等に設置されているので、気づいたことのある人も多いだろう。人工肛門でも仕事を続け、旅行やスポーツを楽しむ人がたくさんいる。必ずしも肛門を残せたほうが、人工肛門になるよりも幸せとは限らないのだ。
実際、直腸がんの手術では、縫合不全を防ぐために一時的に人工肛門にして3、4ヵ月後にそれを閉鎖し、本来の肛門に戻す処置がとられることがある。この処置で人工肛門を経験した患者の中には、「本来の肛門でこんなに不便になるなら、人工肛門のままでよかった」と漏らす人もいるそうだ。
したがって、直腸がんで肛門を残せるかどうかギリギリの選択を迫られた場合は、決断する前に、専門医や認定看護師のアドバイスをよく聞いたほうがいい。
たとえば肛門を残したとしたら、どれくらい肛門機能が維持できそうか、肛門の締りをよくするために、どんなリハビリが必要なのかなど、事前に聞いたうえで決断したほうがいいだろう。直腸がん手術の経験が豊富な外科医ほど、こうした疑問に適切に答えてくれるはずだ。
出典:文春ムック「有力医師が推薦する がん手術の名医107人」(2016年8月18日発売)