直腸がんで手術が必要と言われたら、まず気になるのが「肛門を残せるか」ではないだろうか。

 肛門を残せる基準は一定ではないが、一般的には腫瘍が肛門から5センチ程度離れていれば残せるとされている。また、最近では手技や器具の工夫によって、慣れた施設だと2~3センチほどの距離でも残せるようになった。現在、専門施設なら直腸がんの8~9割で肛門を残せるようになった。

「できるなら人工肛門にはなりたくない」と思うのが人情だが……

 しかし、逆に言えば今でも1~2割の人は人工肛門(ストーマ)にせざるを得ないということだ。腸の一部を腹部の外に出して、専用の袋で排泄物を受ける人工肛門は、定期的にたまった排泄物をトイレに流したり、袋を替えたりする手間がある。匂い漏れなどが気になって、外出しにくいという人もいる。それだけに、「できるなら人工肛門にはなりたくない」と思うのが人情だろう。

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 ただし、肛門を残すことにこだわり過ぎるのはよくない。なぜなら、がんを取り残すと、再発してしまうからだ。直腸がんの再発は、初発のときより症状が辛く、手術も難しい。それだけに手術を受ける際には第一に、肛門を残すことよりもがんを取り残さないことを優先するべきだろう。

 もう一つ考慮すべきことがある。それは肛門を残すことによって、かえって生活の質(QOL)を落とす可能性もあるということだ。

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 肛門を締める筋肉には直腸をとりまく内括約筋と、その外側にある外括約筋がある。がんが肛門に近いところにある場合、内括約筋だけでなく、外括約筋まで切除する必要が出てくるが、そうすると肛門を締める力が弱くなるのだ。

 専門医によると、これによって頻便になってしまい、各駅停車でないと不安で電車に乗れない人や、失禁が気になって外食できない人もいるという。また、介護が必要な高齢者では、頻繁におむつを替えるよりも、人工肛門のほうが、ケアがしやすい場合がある。肛門を残す場合には、このようなデメリットもありうることを考えておく必要があるのだ。