俺には勝算があった。それは、俺が警視庁の元警部補として実名で記者会見を行い、事件に関する情報を喋れば、その行為について「地方公務員法違反の“秘密の漏洩”に当たる」という声が上がるだろう、ということだった。
「俺はこの事件は殺人事件だと考えている」
なぜ、地方公務員法違反が「勝算」になるのか?
それは、この事件に関する「秘密」とは何かという問題に関係しているからだ。
俺が地方公務員法違反に問われるケースとは、安田種雄さんの事件に関する「秘密」を喋った場合である。
改めて言うまでもないことだが、俺はこの事件は殺人事件だと考えている。その前提で「週刊文春」の取材にも応じているし、記者会見にも臨んだ。
一方の警察トップである露木長官は「事件性はない。適正に警視庁が捜査」したと語っている。
事件を巡って、俺と露木長官は、そもそもの前提が異なっているわけだ。
記者会見を行う前に恐れていたこと
7月28日の記者会見で、俺は「この事件には事件性がある」ということを繰り返し述べた。その俺の話が警察の捜査情報=「秘密」であり、地方公務員法違反に当たるというのであれば、それはすなわちこの事件が「自殺」ではなく「殺人」だと認めることになる。俺を地公法違反で摘発する代わりに、露木長官は「事件性はない」という発言を撤回し、捜査を再開せざるを得なくなる。
これが記者会見を行った目的の1つだった。
逆に恐れていたのは、記者会見で「なぜそんなでたらめを言うのか」と記者に質問されたり、警察庁から「長官が『事件性がない』と正式に発表しているのに、なぜ佐藤は噓の会見を開くのか」というコメントが発せられることだった。その場合、露木長官が「真実」を言っていることになってしまい、俺は存在しないでっちあげの事件について語っていることになってしまう。
そんなことを考えながら、俺は記者会見の当日を迎えた。
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