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――日本には世界でも有数のヒグマ高密度地域、知床半島があります。今、そこでヒグマを撮影しているカメラマンのほとんどは「ヒグマが出たぞ!」となると、そこにみんなで寄っていって集団で撮るみたいな感じですよね。撮影スポットもだいたい決まっています。そういうところのクマは人慣れしているのでしょうが、慢性的に相応のストレスもかかっていると思うんです。

 二神さんのように自ら撮影ポイントを開拓し、そこで待つというスタイルでヒグマを撮っている人はごく少数派ですよね。同じ場所で集団で撮っている写真と、二神さんの写真の違いは見る人が見ればわかるものなのでしょうか。

二神 僕はわかると思っています。被写体の圏内にあとから入って撮ったものは目線が泳いでいるとか、どこか落ち着かない表情をしているものなんですよ。

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「クマ恐怖症」の動物カメラマン

――二神さんは京都外国語大学卒業後、編集プロダクションでコピーライターなどを経験し、2012年から北海道に移り住んで本格的にクマを撮り始めたんですよね。

二神 2012年に引っ越して、2014年ぐらいまで北見に住んでいました。ただ、最初の2年間は、ほとんど撮れませんでしたね。20キロくらいのザックを背負って、朝から晩まで歩きましたけど。撮れるようになったのは2015年、2016年あたりです。僕にとってはその2年がヒグマ撮影のピークでしたね。でも会えなかった最初の2年間でクマの食性などの知識を蓄積できたからこそ、ピークの2年もあったんです。

「クマほどいろんなものを食べる動物はいないし、クマほど標高を変えて生活する動物もいないんです。だから、それが伝わるような写真を撮りたいんですよね」と二神 ©中村計

――それだけヒグマを追いかけていると、危険な目に遭遇してしまうこともあるわけですよね。

二神 これはあんまり話したくないのですが……。本来、そういうことがあってはならないので。僕と同じ失敗を繰り返さないで欲しいという意味で恥を忍んで、今回はお話しします。知床の山に入るようになって、2年目だったと思うんです。その頃は、とにかく夢中だったので怖さよりもクマに会いたいという気持ちが勝っていた。12月に入って、森の中をあてどもなく歩いていたんです。そうしたら雪景色の中、すごくきれいなヒグマが歩いていたんです。「うわ、俺が会いたかったクマはこいつだ!」と思ったんです。今でもいちばん美しいヒグマだと思っているんですよ。ただ、そのクマは子連れだったんです。

二神は言う。「昔の人たちは自然と闘ってきた。だから、動物のことを『癒やし系』みたいな括り方はしなかったと思うんです。これからの世代は苦労すると思いますよ。自然と離れて生きてきてしまったので、動物との距離感がわからない」 ©二神慎之介

――子連れのクマはとにかく怖いという印象があります。

二神 子どもにレンズを向けたら、親グマは何かされるんじゃないかと思ってすごい怒ります。なので、子どもが先に逃げたのを確認してから親だけを単体で撮っていたんです。僕はすごく興奮していて、記者会見場のカメラマンみたいにパシャパシャ撮っていた。そうしたら、親グマがゆっくりとこちらに向かってきたんです。

二神がこれまで会った中でいちばん美しかったというヒグマ ©二神慎之介

 ゆっくりとこちらに向かってきたという親グマ。このあと二神さんの身に何が起こったのか。【#2】で詳述する。