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「ウソー!舌ベロンと出して走ってくる」首に2発命中しても反撃するツキノワグマ…老ハンターが“撃てなかった日”

2023/01/30
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 ハンター・新井秀忠の本職は瓦職人だ。今回のインタビューは埼玉県熊谷市内にある「新井瓦店」の事務所で行った。私が話を聞いている間、「こんちは」と次々と人が訪ねてくる。いずれも猟友会に所属する若手ハンターだ。「要するにバカ連中さ」と新井は笑うが、彼らは新井の“悪態”を受け流しながら、その話に耳を傾ける。さながら「狩猟者のサロン」といった趣きだ。(全3回の2回目/#3に続く)

写真はイメージ ©AFLO

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ヒグマより気性が荒いツキノワグマ

 この新井を中心とするグループは、1日で4頭のクマを仕留めたこともあるという。

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「リンゴ園だとかブドウ園だとか、やっぱりクマが悪さするんだ。それで(農園主に)『何とか獲ってくれないか』と頼まれるのさ。(クマの狩猟については)自治体からは自粛要請も出ているんだけど、現実に困っている人がいるわけだからなあ」

 話題はツキノワグマの性質に及んだ。一般にツキノワグマはヒグマより身体が小さい分、危険度は低いと誤解されがちだが、令和3年度の人身被害の実績で比較するとヒグマ9件に対して、ツキノワグマは71件。もちろん個体数でいえばヒグマ約3000頭に対してツキノワグマは1万5000頭以上とされているので、単純に比較はできないが、専門家によっては「ヒグマよりツキノワグマの方が気性が荒い」と指摘する人もいる。

新井のグループは1日に4頭のクマを獲った

「ツキノワグマだって、本当におっかねえよ。やっぱり向かってくるから。なあ?」と新井は傍らに座っていた後輩ハンターの井川昭彦に向かって言った。

首に2発命中したのに、舌をベロンと…

「おめだってな、あれ、最後、弾当たったからまだ鉄砲撃ちしてるけどな。(あのとき)もし弾が引っかかってたら、今ごろダメだったかもしれねえやな」

「あれは一番焦ったな」と井川も苦笑する。それは2年前、群馬県の水上で猟をしていたときのことだ。山中にクマの匂いと雰囲気を感じ取った新井は、グループの次期リーダー候補と目する田部井進彦に「クマ、どんどん追ってこい」と勢子(せこ)役を任せた。

「やっぱり勢子だって怖いからなかなか足が進まないものだ。でもクマに考えさせる間を与えちゃうと、とんでもない方向に逃げちゃうから、とにかくどんどん追ってこい、と怒鳴ったんだ」(新井)

 田部井が山の下から追い、新井と井川が上のほうでクマが出てくるのを待つ作戦だ。この作戦は半ば当たり、半ば外れた。クマは出てきた。だが新井の前ではなく、その後ろにいたこれまでクマを獲ったことのない井川の前に現れたのだ。クマとの距離は約30メートル。井川が夢中で撃った弾は見事に首に命中した。ところがーー井川が振り返る。

「ノドに2発入ったのが見えたから、大丈夫と思ったんです。そしたら舌こうやってベロンと出したまま、こっちに向かって走ってくるんだもん。内心『ウソー!』って叫んで、『これ、もう頭しかねえんか』と思いながら、必死で頭狙ってもう1発ドーンと撃ったらドスンといったけど……。あれはヤバかった」

 後から駆け付けた新井が見たのは井川の「蒼ざめきった顔」だった。

 3発目の弾は眉間に命中していた。今では半ば笑い話になっているが、改めてクマの生命力の強さを思い知らされる話だ。