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飛び出した瞬間、1発で仕留める

 鳥撃ちの「華」は何と言ってもヤマドリだという。キジ科のこの鳥は、水の綺麗な清流近くの山林に生息するが、警戒心が強くなかなか人前に姿を見せない。ポインターなどの猟犬を連れたハンターが沢を下りながら近づいてくると、思いがけぬ場所から、サッと飛び立つ。その速度は、新井の表現を借りると「ビャーっと火を引くよう」で、撃ち落とすと落下する勢いで皮がむけてしまうほどだという。これを仕留めるには、突然藪の中から飛び出すヤマドリに即座に反応し、散弾銃を「構えて狙って撃つ」までをほぼ一瞬の動作で行わなければならない。

「だからさ、そこらへんにヤマドリが棲んでるとわかっていても、下手な鉄砲撃ちにはなかなか仕留められない。それで何度も逃がしているうちに、どうしても獲りたくなるとオレんとこ、来るのさ。『新井さん、あそこにヤマドリいるから行くべ』って」

 犬を連れてその場所にいくと、案の定、ヤマドリは一行の真後ろから飛び出してくる。

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「音がした瞬間、振り向くと同時に1発だからね、オレは。むこうは『あーあ、獲られちゃったい』なんて言ってるけど、そうやって撃ったやつはもちろんそっくり相手にやるよ」

写真はイメージ ©iStock.com

1年に1回、名人も撃てずに外す

 なぜ新井にだけは撃てるのか。すると新井は驚くべきことを言った。

「キジってのは目の下が赤いんだけど、ヤマドリは真っ白なんだよ。そのアイラインの白いのが見えたら、ベンと撃つ。そしたら絶対当たる。(鳥の)体なんて見ないよ。ところが他の人は『白いラインなんて見えねえ』っつうんだよな。それじゃ(弾が)当たるわけねえよ」

 ヤマドリの飛行速度は100km/hを超えるとされる。これを聞いた井川が「オレなんてヤマドリ初めて見たときは、『あぁ、キレイ』なんてボーッとしちゃって撃てなかったけどなあ」と首を振る通り、新井の人並み外れた動体視力と反射神経があればこその技と言うべきだろう。

 だが、そんな新井でも首を傾げることがある。

「オレが外したのを見たことあるヤツはいないと思うけど、それでも1年に1回くらい、外すんだ。綺麗なヤマドリが飛んできて、“ホイきた”といつも通りに撃ってるのに、なぜか当たらない。あれ、なんで当たらねえんだ? とやってるうちに逃げられちゃう。あれが何だかわかんねえんだよなあ。絶対に外れるわけがないんだから」

 その稀少性から霊鳥としても扱われているヤマドリには、「尾が13節あるものは人を化かす」「火の玉になる」などといった言い伝えもある。新井が逃したヤマドリがそれだと言うつもりはない。だが、たまには「名人が撃てない話」もいいものだと思う。

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