寡黙な、陽気な、職人のような、侍のような……ハンターにはいろいろなタイプがいる。だが、“べらんめえ調”のハンターに会ったのは初めてだ。
「おめ、バカげのこと、言うんじゃねえよ!」
若いハンター仲間に向けてポンポン飛び出す“悪態”には、文字だけでは伝わらない妙な品もある。新井秀忠、74歳。埼玉県にある熊谷猟友会に所属するハンターで、その評判は遠く北海道にも鳴り響いている。(全3回の1回目/#2に続く)
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「現役最強」ヒグマハンターのライバル
北海道でオーダーメイドの鉄砲を製作している“羆ハンター御用達”の鉄砲師、山崎和仁(仮名)は、私にこう語ったものだ。
「標津の赤石にライバルがいるとすれば、埼玉のアライさんだろうね。赤石が動物的な勘で勝負するのに対して、アライさんは抜群の運動神経と反射神経で勝負するアスリートタイプ。だって射撃の国体代表候補と勝負して勝っちゃうんだから」
「標津の赤石」とは、私も取材を続けてきた「現役最強」と噂される羆ハンター、赤石正男のことである。残されたヒグマの痕跡からその後の動きを正確に予測して追跡、常人離れした射撃技術で、これまでに少なくとも120頭以上のヒグマを単独で仕留めている。
その赤石が一目を置くのが、私の目の前にいる“べらんめえ”調のハンター、新井秀忠というわけである。赤石と新井とのつきあいは古い。2人を繋げた人物がいるのだが、話が込み入るので、ここではあえて触れない。とにかく今から約30年前、その人物の紹介で北海道をハンティングに訪れた新井を迎え入れたのが、赤石や藤本靖(現・南知床・ヒグマ情報センター理事長)らのグループだった。新井が当時を振り返る。
「内地から来たお客さんでは初めて」
「最初は赤石じゃなくて、藤本が車で猟場をガイドしてくれたんだ。それでオレが鹿を撃つたびに握手さ。『これくらいで握手されてもな』と内心思ったけど、口には出さないよ(笑)。そうしたら猟が終わった後、藤本に『内地から来たお客さんで全部頭を撃って斃(たお)した人は初めて見た』って言われた。(藤本の)握手もそういう意味か、と。(赤石もそれを見ていたから)以来、北海道に行ったときは、ずっと赤石の車に乗ることになったんだ」
要は赤石が新井の実力を認めたということだろう。自らの技術の向上に貪欲な赤石のことだから、新井の射撃を間近で見たいということもあったに違いない。一方の新井は赤石をこう評する。
「ロングレンジじゃ、赤石にかなわない。ヤツは一番遠いのだとオレの目の前で810メートル先のシカを撃ってるからね。オレの場合は、600メートル先のクマを撃ったっていうのが最長距離だな」