「本州のクマ撃ち」のプライド
「でもね、やっぱりロングレンジのライフルやるなら、こっち(本州)で10年やるよりも、北海道で1年やるほうがずっと勉強になる。あっちなら仮に1匹逃がしても次(の獲物)がいるがね。こっちは1匹逃がしたら、次なんていねえから。みんな山越えて、(鳥獣)保護区に逃げ込んじゃう。なんたって保護区が多いからさ」
だからこそ新井には、「一発必中」というこだわりがある。やはり以前、新井が赤石らと北海道で猟をしていたときのこと。地元の若手ハンターが3発撃ちながらシカを逃がした。
「で、牧場を全速力で横切って逃げていくのをオレが1発でひっくりけえしたんだ。300メートル以上のランニング(走っている状態)を1発で斃したもんだから、生意気なアンちゃんがすっかり大人しくなったよ。悪いけど、こっち(本州)じゃ、獲物は全部ランニングだから。北海道みたいに(獲物が)止まるまで待ったりしねえよ」
ニヤリと笑った新井の表情に「本州の熊撃ち」のプライドがちらりと垣間見えた。
イノシシの牙で大動脈を狙われて…
一方で本州の山には北海道には生息しない危険な獣がいる。イノシシである。
「シシっていうのは、ヴヴヴヴヴって唸りながら、このへん(太もも)の大動脈を牙で狙ってくるんだ。このあたりのハンターでもやられて出血多量で亡くなる人もいるからね。この牙でもってガスーンって。犬なんてすぐ死んじゃうよ」
「おお、これこれ」。新井が取り出したアルバムのページを繰る手を止めた。そこには銃を持った新井の横に丸々と太った巨大なイノシシが横たわっている写真があった。
「でけぇよな。ここまで大きくなるとはっきり言って、クマよりおっかないからね。これはリンゴ農家の親父から『軽トラの荷台くらいのイノシシがいる。何とかしてくれ』と頼まれたんだ」
目撃現場は岩場になっていて、松の木が茂っていた。声を出しながら、イノシシが出てくるのを待つ。もしそこにいるなら、この声で普通なら飛び出してくるが出てこない。ここにはいないのか……。だが、長年の経験がその場の“異変”を感じ取った。
「姿は見えないけど、なんか雰囲気あるから『おかしいな』と思って、こう鉄砲肩から下ろして構えたんだ。そうしたら松の木の陰から、ヤツがひょっと顔出して、こっちじっと睨んでやがるのさ」
だが見えるのは顔だけで、身体は木に隠れてしまっている。もし、この距離で撃ち損じれば、突進してきたイノシシの牙にひっかけられて命を落とすこともありえる。
「で、耳を狙ったのさ」
放たれた銃弾は、ピクピクと動く耳の穴に吸い込まれるように命中した。その体重は実に200キロ。ヒグマにも匹敵する「モンスターイノシシ」との勝負は、まさに一発必中だったのである。
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