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「ウソー!舌ベロンと出して走ってくる」首に2発命中しても反撃するツキノワグマ…老ハンターが“撃てなかった日”

2023/01/30
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国体代表候補が青ざめる射撃技術

 その井川が話を続ける。

「散弾銃とライフル、新井さんはどっちも上手いっていうのがおかしいんだよなぁ。ライフル射撃のオリンピック代表候補選手に『散弾銃で鳥撃ちやれ』たって、普通は下手なんだよ。そりゃそうだよ、ライフル射撃(ライフルで動かない的を狙う)と、クレー射撃(散弾銃で飛んでくる皿を撃つ)じゃ、まったく競技が違うんだから。両方できる方がおかしい」

「『おかしい』たって、努力してんだよ、こっちは!」と言い返す新井に、“羆ハンター御用達”の鉄砲師、山崎が語っていた「射撃の国体代表候補選手に勝った」という話は本当か尋ねると、

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「ライフルだったら、オレは100メートルの距離で5発撃ったら、その弾痕が全部11ミリ以内に集まる。その記録は破られたことねえな。んなもんだから、みんな『ライフルの新井』と思ってたんだね。それでオレが8年前にトラップ射撃を始めてバンバン撃ってたら、それを見たヤロウ(※国体代表候補選手)が、『新井さん、散弾銃も撃てるの?』って青い顔してやがるのさ(笑)」

 国体代表候補選手が青ざめるほどの射撃技術はいかに磨かれたのか。

ハンターの新井秀忠氏

「小学生の頃には空気銃で、鳩、撃ってたね」

「うちは、祖父、父の代から三代続く鉄砲撃ちでね」と新井がそのルーツを語る。

「だからオレも小学生の頃には空気銃で、鳩、撃ってたね。あるとき50ccのバイクの後ろに同級生のっけて川に鳩撃ちに行こうとしたら、駐在にめっかってさ。また運が悪いことに、駐在がその同級生の親父なんだよ(笑)。大目玉を食らったね。今だから言えるけど、中学に上がる頃には、親父のロッカーから鉄砲を持ち出してたからね。鳥ならほぼ百発百中で撃てるようになってたよ」

 もともと運動神経は抜群だった。高校時には50メートル走で5.8秒、100メートルは11秒フラット。県の陸上大会に出れば、100メートル走、200メートル走、走り幅跳び、走り高跳びと実に4種目で決勝に残った。

 山崎がハンターとしての新井を「アスリートタイプ」と評するのも頷ける。

 20歳になって晴れて狩猟免許を取得。その頃には鳥撃ちにかけてはキャリアも十分で、ベテランハンターと勝負してもまず負けることはなかった。