借りたお金を何ヶ月も返さないお客への電話はメンタルがすり減るもの…知られざる「消費者金融(サラ金)」のお仕事内容とは? 消費者金融業界で20年間働き続けた、加原井末路氏の新刊『消費者金融ずるずる日記』(三五館シンシャ)より一部抜粋してお届けする。(全2回の1回目/後編を読む)

知られざる「消費者金融」のお仕事とは? 写真はイメージ ©getty

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「楽な仕事だよね」と思うかもしれないけど…

 督促電話は朝9時から夜9時まで続く。

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 入社してみて意外だったのが、デック(中堅の消費者金融業者)にはノルマは存在しないことだった。同業他社である武富士などは社員へのノルマの厳しさが伝えられていたころだったので、私もその覚悟は持っていたのだが、われわれ回収部隊にも明確なノルマの取り決めはなかった。もちろん、回収の実績が悪ければ、支店長に舌打ちされたり、詰められたりはするが、明確な数字の設定はなく、回収率に応じた給与のインセンティブもない。ただひたすらに電話をかけ続けるのだ。

 電話に出なければ、かけ直す。留守電になれば、メッセージを吹き込む。電話に出れば、その場で支払ってくれるように要求する。これの繰り返しだ。これが朝から晩まで、多いときで1日数百件もの架電を行なう。

「返さないやつを罵倒すればいいのだから、楽な仕事だよね」と思うかもしれないが、取り立てが心身に堪える仕事だということはあまり知られていない。このつらさをどう表現すればいいだろうか。

 たとえば、あなたが知人に頼み込まれて10万円を貸したと仮定しよう。知人は「来月中に絶対返すから」と約束した。だが、次の月になって、「あのお金、どうなった?」と聞くと、「今月は難しそう。来月には返すから」と言う。あなたはそれを信じて、さらに1カ月待った。翌月に電話してみると、「来月には返すから」と言う。また1カ月待った。金は返ってこない。さて、貸した10万円を返してもらうため、あなたなら次の電話で、友人になんと言うだろうか?

 相手の反応もさまざまだ。返事もしない人、泣き出す人、わめく人、逆に怒り出す人、威嚇する人……手を変え品を変え、彼らから約束を取り付けて、支払いをさせる。「罵倒するだけの楽な仕事」ではけっしてない。

 入社当初、回収フロアでの「客を客とも思わない」社員たちの言動に違和感を持っていた私も、この世界の色に染まるのにそう時間はかからなかった。電話に出ない。約束を破る。集金に行っても居留守。こうした日常が続くと、債務者に対して憎しみともいえる感情が湧いてくる。

「なんで、どいつもこいつも、みんな返済が遅れるのか?」

 実際にはきちんと返済している人がほとんどなのだが、われわれ回収部隊が相手にするのは100%返済滞納者のため、どうしても感情が「負」に傾く。

 今日も朝から督促電話タイム。この日の私は延滞の浅い1カ月未満の延滞者への架電なのに対して、石松さんは3カ月遅れのお客担当で、憂うつな顔をしている。