「防塵マスク越しでも鼻に突き刺さるとんでもない激臭。アンモニア臭に苦味を混ぜたような臭い」。ゴミ屋敷に置かれた、謎の液体の入ったペットボトル。異臭を発する、謎のペットボトルの正体とは…? 12年間ごみ清掃員として働いたお笑い芸人・柴田賢佑氏による『ごみ屋敷ワンダーランド ~清掃員が出会ったワケあり住人たち~』(白夜書房)より一部抜粋してお届けする。(全2回の1回目/後編を読む)
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僕史上最大の尿ペ屋敷を片づけた時の話
皆様は「尿ペ」と呼ばれる現代の謎をご存知だろうか。
「ションぺ」と呼ぶ業者もいるが、うちでは「尿ペ」と呼んでいる。
尿ペとは、読んで字の如く、……と言っていいのかわからないが、尿が入っているペットボトルのことを指す。
これは僕史上最大の尿ペ屋敷を片づけた時の話。
前日に、社員から珍しく、「明日は完全防備でお願いします」と連絡が来た。
怖い。うちの会社は僕のリアクションが好きらしく、前日にスケジュールを教えず、当日サプライズ的に現場を発表することが多々あるのだ。そんな社員が事前に教えてくれるなんて、よほどの案件なのか。緊張が走った。
当日、現場までの行きのトラック内でも「覚悟しておいてください」と言われた。
ははぁん。ここまで言うとは、さては逆だな。逆サプライズだ! ヤバイと思わせておいての、蓋を開けたら大したことないみたいな話だなとピンと来た。
現場に到着すると、トラックの周りにいる五人全員が、防護服にゴム手袋、防塵マスク、長靴を装着していた。
……ははぁん。
「本当にヤバイんだな」と納得した。冗談にできないほどか。
破裂寸前のリビング
現場の前で、依頼して来た不動産屋と思しき人物と話している社員。
完全防備を終えて現場に向かう一同に、不動産屋らしき人物が、「よろしくっす!」とニコニコ明るく話しかけてきた。
少しラフだが、こういう一言が意外に嬉しいものだ。
今回の現場は、アパートの一階の1LDK。ただし、十畳のリビングだけ作業するとのこと。玄関、廊下もごみが積もっていて入れないため、リビングの窓から入って作業することになった。一階だからできる戦法だ。
建物の横を通って庭に出る。庭からリビングの窓を見て愕然とした。部屋の中のごみで押されて、カーテンが窓にピタピタに貼りついている。横から見ると、窓が膨らんでいるのがわかる。透明の箱の中で、今にも破裂しそうな風船状態になっていた。窓ガラスはいつ割れてもおかしくない。
鍵は開いているとのことで、スライドさせようとするが、まったく開かない。窓を外すことになった。ごみが雪崩を起こすことを予想して、全員三歩ほど下がる。
社員が窓を上に持ち上げ、後ろに引いて外した。
後衛にいた僕は、「すぐ逃げて! 窓外したらすぐ逃げて!」と心の中で叫ぶ。
……。
あれ? 雪崩が起きない。ごみがピタッと窓際で固まっている。