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 しかし、戦後の混乱のなか親に捨てられ、保護施設と少年院を渡り歩き、追手から逃げるために「肥溜めの中を泳いで渡ったこともある」というジョーの壮絶な来し方は、このドラマのなかに「重し」のように戦争の影を落としている。

たくさん見つかる『カムカムエヴリバディ』との共通点

 そしてなんと言っても、このたびの『オードリー』再放送の「今だからこそ」のお楽しみ要素としては、『カムカムエヴリバディ』(2021年後期)との共通点探しが挙げられる。ヒロインが時代劇にあこがれる(『カムカム』では「時代劇」が三代のヒロインをつなぐ経糸にもなっている)。京都太秦撮影所が舞台。ヒロインが映画に携わる仕事をする。この時点で細かな共通点が生じるのは当然のことなのだが、脚本家・藤本有紀氏は『オードリー』に並々ならぬ思い入れがあり、深いリスペクトをこめて『カムカムエヴリバディ』の脚本に様々な「共通項」を仕込んだのではないか、と想像できるのだ。

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 まず、『オードリー』の美月にとってあこがれの桃山剣之助(林与一)と、『カムカムエヴリバディ』の三代目ヒロイン・ひなた(川栄李奈)がファンである桃山剣之介(尾上菊之助)は、共に大御所時代劇スター。双方の名前は一字違いで読みは同じ、「モモケン」の愛称で親しまれている設定まで同じだ。

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 美月の初恋の相手・ジョーこと錠島は赤子のうちから施設に預けられ、「名前のない人間」として育った。やがて大京映画に入り、芸名を錠島尚也と名乗る。

 一方、『カムカムエヴリバディ』でひなたの父であり、二代目ヒロイン・るい(深津絵里)の夫・錠一郎(オダギリジョー/少年時代:柊木陽太)は戦災孤児。自らの名前を「じょういちろう」という読みでしか覚えていなかったところ、ジャズ喫茶のマスター・定一(世良公則)と出会い、彼の名から「定」を「つくり」に取った「錠一郎」という名前を授けられる。ここでも両作品には、「ヒロインの相手役が天涯孤独の身の上」で、名前に「錠」の字がつく、あだ名が「ジョー」という共通点がある。

オダギリジョー ©文藝春秋

 『オードリー』の劇中ドラマ『惨殺浪人・夢死郎』は、無名の大部屋俳優・錠島を主役に、それまで助監督だった杉本を監督に抜擢し、斬新な殺陣を売りにした時代劇だ。そのなかで随所に、黒澤明監督による名作『椿三十郎』(1962)へのオマージュが垣間見られる。『カムカムエヴリバディ』で、るいが岡山から大阪に出てきて間もない頃、クリーニング店の客・片桐(風間俊介)との初デートで観に行った映画は『椿三十郎』だ。