“正当な怒り”を表現する妻ペネロペ・クルス
エンツォの心がリナ・ラルディと息子のピエロに支えられているのに対して、ラウラは孤独だ。
ディーノを失った悲しみはエンツォとしか共有できないのに、ふたりの心はディーノとともにそのスペースも失ってしまった。
ラウラを演じるペネロペ・クルスの美貌は、悲しみに覆い尽くされている。ぎこちない歩き方にエレガンスはない一方、良きイタリア女の“正当な怒り”が表れているようで心が張り裂けそうになる。
マシンの華奢なパーツが映すエンツォの冷たい情熱
物語のクライマックスは1957年のミッレミリア。240km/hを超える速度で公道を走るマシンの、美しくも何と心許ないことだろう…。エンツォ・フェラーリの冷たい情熱が、華奢なパーツに映し出されている。
罪悪感をともないながら、刹那的な生き方を美しいと感じる。厭世的に死をも受け入れる。そんな時代を生き抜いて、エンツォは世界を熱い興奮で満たすことに成功した。彼の原風景を映し出すこの作品を観ると、それが奇跡だとよくわかる。
『フェラーリ』
INTRODUCTION
1991年に原作が出版されて以来、30年以上に及ぶ構想期間を経て、マイケル・マン監督が執念の映画化。1957年のフェラーリにとって激動の1年を描く。
エンツォ・フェラーリにアダム・ドライバー、その妻ラウラにペネロペ・クルスが扮し、情熱と狂気の狭間にある複雑な男女関係を演じる。
レースシーンを再現するにあたり、貴重なオリジナルカーをもとに精緻なレプリカを製作したほか、当時の車両も多数参加。迫力のレースシーンを再現した。
STORY
1957年、設立から10年経ったフェラーリ社はライバルの台頭によって乗用車の売上が減り、破産寸前の危機に瀕していた。前年に一人息子のディーノを亡くしてエンツォとラウラとの夫婦間は冷めていたが、共同経営者だけに切っても切れない関係性にある。
エンツォには婚外子のピエロもいたが、当時のイタリアでは認知も叶わず、その存在をラウラに知られ悩みは深まるばかり。会社と夫婦の危機がのしかかるなか、全てを失う危機感を抱いたエンツォは、社運を賭けて公道レース「ミッレミリア」に挑む──。
STAFF & CAST
監督:マイケル・マン/原作:ブロック・イェイツ著『エンツォ・フェラーリ 跳ね馬の肖像』/出演:アダム・ドライバー、ペネロペ・クルス、シャイリーン・ウッドリー/2023年/アメリカ・イギリス・イタリア・サウジアラビア/132分/配給:キノフィルムズ/7月5日公開