リドリー・スコットが映画『最後の決闘裁判』を全世界公開したのは、昨年10月のこと。それからたった1ヶ月後、彼は最新作『ハウス・オブ・グッチ』を北米やヨーロッパで公開した。『最後の決闘裁判』はパンデミックで撮影が一時中止され、予定より公開が遅れたという事情があるのだが、だとしてもこのスケールの作品をこのペースで世に出せるフィルムメーカーは、なかなかいない。そう指摘すると、スコットは「そう、すごいだろう?」と満足げに言った。
グッチ一族の間で起きた大きな悲劇
「20ヶ月の間に2本も映画を作ったんだよ。私はもう何年も仕事が早いことで知られてきている。私は映画学校にも演劇学校にも行っていない。芸術学校を出て、アートディレクターになり、そこからCMを監督する話が来た。そして2,000本以上のCMを監督した。その経験からすべてを学んだんだ。それが私にとっての映画学校だった」
常に多数の作品を同時進行させているのも、途切れることなく作り続けられる理由のひとつ。それらの中には自分で監督するものもあれば、プロデューサーにとどまるものもある。『ハウス・オブ・グッチ』も、20年前から抱えていたプロジェクトだ。原作のノンフィクション(サラ・ゲイ・フォーデンの『ハウス・オブ・グッチ』)に目を付けたのは、スコットの妻で、今作のプロデューサーでもあるジャンニア・ファシオ。イタリアに長く住んだ経験を持つ彼女は、世界に名を知られるグッチ一族の間で起きた大きな悲劇に強く心を惹かれたのだという。
「これは、言うならば21世紀版のメディチ家の物語だ。あの家族は、何事においてもお互いと合意することができない。だから一緒にビジネスをうまくやっていくことは不可能。古典的な話で、風刺でもある。そこが面白いと思った」
映画は、20代のパトリツィア・レッジャーニ(レディー・ガガ)がグッチ一族の御曹司マウリツィオ(アダム・ドライバー)と出会い、恋に落ちるところから始まる。家業を継ぐことに乗り気でなかったマウリツィオが、パトリツィアとの結婚後にグッチの会社の仲間入りをすると、パトリツィアも男たちと肩を並べてバリバリと仕事をしようとした。しかし、そんな彼女はしばしば「君はグッチではない」と他所者扱いされ、屈辱を味わうことに。夫婦仲も冷め、ついに夫から離婚を言い渡されると、パトリツィアは殺し屋を雇って夫の暗殺を企てる。