グッチ一族は「真実と違う」と批判
この映画に関して一度も相談を受けていないというグッチ一族は(現在のグッチには一族のメンバーは誰もかかわっていない)、男社会でパトリツィアが辛い思いをしたという部分をはじめ、映画の描写の多くは「真実と違う」と批判。だが、スコットは、自分たちなりに事実をできるかぎり追求しようとしたと主張する。主人公をパトリツィアにすること自体も、じっくり考えた上で決めたことだ。
「原作本は優れているが、そこには著者の気持ちが反映されている。あれは、著者の解釈にもとづく事実だ。私たちは、何度も立場を変えて見つめ直してみた。悪いのは誰だったのか。パトリツィアか? それともマウリツィオがパトリツィアを受け入れてあげなかったからか? そう考えるうちに、私たちは、小さなことの積み重ねだと思うようになった。お互いが嫌がることを、彼らは少しずつやってきたのだと」
パトリツィアの不満が爆発するのは、グッチの偽物が街角で売られているのを見つけた時だ。ブランドイメージが大きく損なわれると激怒したパトリツィアは、息巻いてそのことを男たちに報告するのだが、すげない対応をされて終わってしまうのである。
「あそこで、大きな溝が生まれた。修復できない溝が。そのような溝は、一度できてしまったら、あとは大きくなるだけだ。大きくなって、最後にはすべてが崩壊する」
主演のレディー・ガガと長い話し合い
パトリツィアの内面が変化していく過程については、主演のレディー・ガガとも長い話し合いをした。
「仕事ができる監督は、現場に入るまでに話し合いを全部終えている。現場では、『話す』のではなく、『起き』なければいけない。そのためには、その人がどんな人なのか、どこで、いつ、どうなるのかで合意がなされていないとダメだ。お互いの解釈が合っていないと。そこをしっかりやっておく。『うまくいきますように』と思って現場に行くわけじゃない。キャスティングはもちろん、それより先にも撮影に入る前にやっておくべきことは山のようにある」
製作開始までの長い年月の間には、ペネロペ・クルス、マーゴット・ロビーなど、何人かの名前が主演の候補に挙がったと言われる。だが、最終的にその役を掴んだのは、これが2本目の映画となるレディー・ガガだった。