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恐るべきヒグマの“止め足”、死んだふりも…

――ヒグマの嗅覚は犬の100倍とか1000倍とか言われていますね。

「そうです。それから僕らがヤブの中を歩くときは、どうしたってガサガサと音がしますが、ヒグマはまったく音を立てません。猫みたいに柔らかい毛を全身立てることで、葉っぱとの摩擦音が消えるんです。だからクマにヤブの中に入られたら、どっちの方向に抜けたのか、それともまだそこに留まっているのか、見定めるのは至難の業です」

 信じ難い話だが、ヒグマはあの大きさでありながら、ひざ丈ぐらいの草があれば、四肢を地面に投げだすようにして「ぺったんこ」になり、すっかり隠れることができるという。

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写真はイメージ ©iStock.com

「ハンターから追いかけられたヒグマは、そうやって忍者のように隠れたり、わざと川の中を歩いて足跡を消したり、人間がとても歩けない雪渓から雪渓へと3mぐらい軽々と飛び越えたりする。極めつけは“止め足”です」

“止め足”とは、ハンターの追跡に気付いたクマが、自分の足跡を踏みながら後ろに戻り、足跡のつかない草の上などにジャンプすることで、足跡を辿れないようにかく乱する行動である。場合によっては、そのまま草むらに隠れて、後から足跡を追ってくるハンターを横合いからいきなり襲うケースもある。

「特に“半矢(ハンターの銃撃などで手負いになること)”のクマは要注意です。向こうも必死ですから、止め足も使うし、死んだふりもする。僕の知り合いのBさんもトムラウシ山でやられてます」

最後の力を振り絞ったヒグマの反撃

 仲間とシカ狩りで山に入ったBさんは、その帰り道で、林道の上にいるクマを見つけて撃った。銃弾は命中し、クマはもんどりうって、斜面を転がり落ちた。Bさんはそのとき仲間と離れて1人だったが、上からのぞいてクマが動かなくなったのを確認すると、無線で“クマ獲ったぞ”と仲間に連絡し、先に下に降りたという。するとーー。

牛を襲い続けたOSO18の姿(標茶町提供)

「死んだと思ったクマが突然立ち上がって、いきなり(Bさんの)頭にかぶりついたんです。仲間がかけつけたときは、もうやられた後で頭から血を流したBさんが倒れていたそうです」

 最後の力をふり絞った反撃の後、クマはそのまま絶命した。Bさんは病院に搬送され、120針以上を縫った。一命はとりとめたものの頭蓋骨骨折の大けがで、その後も、6回の大手術を余儀なくされたという。

 Bさんの場合は狩猟中の事故だったが、有害駆除で緊急出勤中のハンターの事故も後を絶たない。