さらにヒグマを獲った経験のあるハンターは70歳以上の高齢者が多く、彼らが引退してしまったら、そのノウハウもまた途絶えてしまうことになる。
――今後、北海道では、これまでヒグマが出没してなかった地域での出没もあり得ますが、そうした地域では既に猟友会がなくなってしまったところもあるそうですね。
「ですから、これまでのようにすべてを猟友会に“丸投げ”というヒグマ対応はもう限界だと思っています」
自治体が主導権を握るべきではないか
――最近では、自治体や警察などの公務員が職務として駆除にあたる“ガバメントハンター”の必要性も議論されています。これについてはどうお考えですか?
「僕は、そういう鳥獣対策のプロフェッショナルの公務員がいて、その指示のもとで、我々のような猟友会が協力するという形が一番いいと思う。だから今回、役場に直談判に行ったとき、担当者が『いま、若い職員に罠の免許をとらせてます』と言うので、『だったら、ついでに銃の免許もとらせれば』と言ったんです。それに対しては返事しないんだわ(苦笑)。自治体の方がこういう認識だとなかなか難しいかもしれません」
――誰の責任において駆除を行うのか。山岸さんは自治体が主導権を握るべきだとお考えですか?
「私は最終的にそれしかないと思っています。それに対して猟友会は、例えばNPOなど法人化して町役場とクリアな契約関係を結び、粛々と駆除に当たるという形もありだと思います。とにかくはやく本格的な対策を始めないと“手遅れ”になるぞ、というのが僕らの認識です。というより、既に手遅れかもしれない。この危機感をより多くの人に共有してほしい。それが今回の我々の行動の真意です」
クマの生息する地域の「今そこにある危機」
今回、山岸が指摘した問題は、北海道の小さな町のレアケースではない。クマの生息する地域であれば、日本全国どこでも今後、起こり得る「今そこにある危機」なのだ。
だからこそ、山岸らが提起した問題に奈井江町側がどう対処するのか、そこから新たな枠組みが生まれてくるのか、クマ問題を扱うライターとして個人的にも注目していた。だがこのインタビューを終えた後、前述した通り、両者の交渉は「決裂」してしまったのである。
今後、奈井江町ではヒグマが出没した場合は、猟友会に所属していない町内の別のハンターや民間業者に委託することを検討しているという。
「町がそれでいいと言うなら、奈井江部会としてもこれ以上言うことはありません。我々としては、とにかく中途半端な形で決着することだけは避けたかった。それだけです」
付言するならば、猟友会に属していない町内在住の唯一のハンターも既に80歳を越えているという。