1ページ目から読む
3/4ページ目

 例えば2021年4月には、富良野市内で「ハンターがクマを手負いにした」との情報があり、警戒活動にあたっていた猟友会の別のハンターが森林内の斜面で、突然ヒグマの襲撃を受けた。このハンターは全身多発外傷(咬創、裂傷、開放性骨折、粉砕骨折)の重傷を負った(当該クマは同行のハンターが駆除)。

 また2022年7月には道央の滝上町で、“牧草地にヒグマがいる”という通報を受けて2人のハンターが出勤。68歳のハンターがヒグマを発見し、発砲したところ、撃たれたクマは崖の下のササヤブに落ちた。この死骸を回収すべく崖下に降りたところ、ササヤブの中からクマが飛び出してきた。同僚ハンターは離れた場所にいたため、このハンターはクマと格闘、無我夢中で弾痕から腸を引き抜いたところ、クマはその場を離れた(翌日、付近で死んでいるのを発見された)。このハンターは70針を縫う重傷(頭部、顔、右腕への咬傷)を負っている。

写真はイメージ ©iStock.com

ヒグマによる人身事故の半数以上がハンター

「ヒグマによる人身事故の被害者の半数はハンターです。いくら銃を持っていても、相手がヒグマの場合、反撃を受けた場合のリスクはそれだけ大きい。仮に命だけは助かっても、半身不随になったり、Bさんのように何度も手術をしたり、本業の仕事にも支障が出るケースがほとんどです。ですから奈井江町との話し合いでも、休業補償も含めて実施隊の隊員はちゃんと保険に入れてほしいと頼みました。町側は『隊員は臨時職員扱いで、公務災害が認められるから大丈夫です』と言うんだけど、それでどこまでカバーされるのか。補償の具体的な内容もはっきりしない。これでは命をかける気にはなりません」

ADVERTISEMENT

――一方で、もしこのまま山岸さんたちと奈井江町側とで折り合いがつかなければ、今後奈井江町内でヒグマが出没した場合、これに対応する手段がないということになりますよね。それについては、どうお考えですか?

「先日も猟友会の仲間と話したんですけど、みんなが心配しているのは、まさにこの間の『空白』をどうするのか。もし今、町内でクマが出たら、現実問題としてどんな対応ができるのか。僕の中では、それに対する案もないわけではない。ただこの空白をどうするのかというのは本来、役場側が考えるべき問題なので、ここではあえて申しあげません」

写真はイメージ ©iStock.com

増え続けるヒグマ、減り続けるハンター

 ひとつだけはっきりしていることがある。それは、今後、全道的にヒグマはどんどんと増え続け、それに対処すべきハンターはどんどん減っていくという事実だ。

 データで見れば、1990年代に5200頭だったヒグマの生息数(推定)は、2020年度には1万1700頭と30年で倍増している。一方でピーク時の1978年には約2万人いた北海道の猟友会の会員数は、2022年には5361人と、実に4分の1まで減少している。