「オオタニは現代のベーブ・ルースだ」

「ショウヘイ・オオタニは野球史上最高の選手になり得る」

 打っては3試合連続本塁打、投げてはあわや完全試合かという投球を見せるなど、今年海を渡った大谷翔平(ロサンゼルス・エンゼルス)の活躍は、現地でも手放しで称賛されている。100年もの間、誰も成し得なかった投打の“二刀流”スタイルへの挑戦とあって、アメリカメディアも興奮しっぱなしと聞く。

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あわやパーフェクトという圧巻の投球を見せた大谷翔平(4月8日、オークランド・アスレチックス戦)©getty

挑戦の国・アメリカにおける“二刀流”とは

 ただ、これって意外なことじゃないか。

 なぜなら舞台はアメリカ。

 挑戦することが美徳とされ、戦わないものには容赦のない、あのアメリカである。近年、“二刀流”選手が出ていなかったこと自体が不思議な話ではないか――と、そんな気もする。

 一方で、もっとハードルの高そうな「他競技との二刀流」というケースは、実はけっこう頻繁に起きている。例えば今年の2月上旬、米紙にはこんな見出しが踊っていた。

「MLBニューヨーク・ヤンキースがNFLシアトル・シーホークスのQBラッセル・ウィルソンを獲得」

シアトルのスターQBラッセル・ウィルソン ©getty

 ウィルソンといえば、2013-14年シーズンにはスーパーボウルも制したシアトルのスターQBだ。もちろん現役バリバリのスターティングメンバーで、人気も実力も折り紙つき。それこそ現地ではイチローどころではない有名人だ。日本でいえば巨人のエースが浦和レッズに所属したようなものである。

 先月のMLBオープン戦では三振に倒れたものの、フリーバッティングでは本塁打を量産するなど、しっかりとそのポテンシャルは見せつけている。

 また、2010年にNFLのデンバー・ブロンコスからQBとして1巡指名を受けたティム・ティーボウは現在、アメフトから離れてMLBニューヨーク・メッツ傘下の2Aで戦っている。敬虔なクリスチャンとしてファンから多大な支持を得ていた好青年は、開幕戦で3ランホームランを放つなど活躍を見せ、GMから「彼はメジャーリーグでプレーすることになると思う」と太鼓判を押されている。

 ウィルソンに関してはあくまで「勝者のメンタリティを学びたい」というヤンキースフロント側の戦略的な要素が強く、ティーボウはすでにNFLからは離脱している。だが、アメリカには過去に同時期に複数競技でスターターを張った例も数多くある。

試合間をヘリコプター移動した強者までいた

 最も有名なのが1990年代にNFLとMLBで活躍したディオン・サンダースだろう。ワールドシリーズとスーパーボウルの両方に出場した経験のある唯一の選手だ。

スーパーボウルに出場したダラス・カウボーイズ時代のディオン・サンダーズ ©getty

 大学卒業後にヤンキースからドラフト指名されて入団したサンダースだったが、翌年夏にはNFLのアトランタ・ファルコンズからも指名を受ける。ちょうど野球の方でもメジャー昇格が決まって活躍を始めていた矢先だったにもかかわらず、ファルコンズとの契約が合意に達すると、すぐにキャンプへと参加した。もちろん、ヤンキースにも所属した状態で、である。その決断の潔さにも驚くところだが、そのまま9月の開幕戦でタッチダウンを記録するあたり、やはりスターは“持っている”のだろう。

 そもそも受ける方も受ける方だが、指名する方もする方である。しかもこの年のファルコンズは、ドラフト1巡目にサンダースを選んでいる。秋はアメフトと野球のシーズンが重なっているため、サンダースはアメフトの試合後にヘリコプターで移動し、そのまま野球の試合に参加するという事態まで起きている。これにはさすがに大谷も驚くのではないだろうか。